鋭く先がとがったその形は、さながら白い骨で作られた刀剣だ。「これがジーンズの生地になると知って、みんな驚きますよ」
頭部から角のように突き出たメカジキの吻(ふん)を手に、宮城県気仙沼市のジーンズ製造会社「オイカワデニム」の及川洋社長(48)がいたずらっぽく笑う。メカジキを使ったジーンズを作り始めたきっかけは、東日本大震災だった。
高台の工場は津波を免れたが、海沿いにあった倉庫は5000着以上の在庫ごと流された。工場は近隣住民の避難所となり、直後は約150人が身を寄せた。
現金があっても、飲み水もガソリンも手に入らない。商売で利益だけを追求してもむなしいと感じ、「地域や未来のために仕事をしよう」と決意した。
1981年創業。父明さんが91年に病気で他界し、母秀子さん(74)が社業を守った。2016年、営業や商品企画などを担ってきた洋さんが3代目に就いた。
創業から相手先ブランドによる生産(OEM)が事業の柱だ。国内外の大手から委託を受けた。だが、洋さんは05年に自社ブランドジーンズ「STUDIO ZERO(スタジオ・ゼロ)」を立ち上げる。価格競争や流行に売り上げが左右されにくい、自社製品の必要性を感じていた。
デザインの良さと日本製への信頼で、販路は欧州にも広がる。米ハリウッドや日本の俳優、欧州のサッカー選手の心もつかみ、ゼロは看板商品として浸透した。一方で「どこか地に足が付いていない感覚」もあった時、震災が起きた。
力を注いだのは、衣類の新素材の開発だ。震災前から業界ではファストファッションが台頭。将来、綿の生産量が消費に追い付かなくなるとの試算を耳にし、ずっと気に掛けていた。
目を付けたのは気仙沼が水揚げ日本一を誇るメカジキ。「吻だけは何にも使えないから捨てる」。避難所となった工場で、ある漁師が何げなくこぼした一言が頭に残っていた。
「命懸けで取った資源を捨てるなんて」。あらゆる物資が足りなかった当時、強い違和感を覚えた。同時に、吻を活用できれば漁師の利益になり、地域に好循環が生まれると思った。
吻を粉末化し、繊維に織り込んだ。初めは失敗。生地から焼き魚の臭いがした。工夫を重ね、着手から3年後の15年、通常より綿を40%抑えた上で、納得できる品質での製品化に成功した。地元水産会社や漁師から年間で1トン前後の吻を買い取る流れができた。
「気仙沼産」ジーンズは内外で反響を呼び、会社の新たな代名詞になった。「製品ができた背景にみんな興味を持つ。何千本売れるよりうれしい」。地元の遠洋マグロ漁船員が寄港先で自慢げにはく姿を見て、気仙沼まで買いに来たスペイン人もいた。
今秋には、エゾシカの毛を使ったジーンズの発売を視野に入れる。北海道では年に10万頭以上が駆除されると知り、3年前に開発に着手した。命の恵みを無駄にしたくない-。震災を機に芽生えた価値観が今も息づく。
縫い上げるジーンズで人と自然のサイクルを回し、新たな豊かさを紡ぐ。「ものづくりは地域の力になれる。次世代にもそれを形で伝えていきたい」
(鈴木悠太)
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