苦悩や悲嘆に満ちた東日本大震災からの10年。たくさんの経験と思索を重ねた今、歳月にどんな意味を見いだせるのだろう。それぞれの立場で被災地とともに歩み、現在に至る道のりを見つめ続けた6人が語る。
<震災当時、3本の連載を抱えていた。何とか完結させたものの、作家として重大な危機に見舞われた>
大好きなはずの小説が全く読めなくなった。本を開いてもその世界に入っていけない。あれだけの現実を前にしたら、小説などどうでもよくなった。新しく書くのはもう無理と思った。
東京から発信される報道に相当腹が立っていた。津波が押し寄せる映像を流しっ放しだったり、東京での水の買い占めをトップニュースにしたり。被災地の感覚とずれていた。
目的もなく毎週のように宮城、岩手の沿岸部に足を運び、荒れ果てた光景を目に焼き付けた。友人に言われて気付いた。被災地に暮らす数少ない物書きとして、震災以前の様子を知る者として、やはり書かなければと気持ちが変わった。
<かつて中学教師を務め、3年間過ごした気仙沼市をモデルにした「仙河海市(せんがうみし)」シリーズ8作を書き上げた。物語は明治から近未来に及び、被災地発の代表的な小説群となった>
気仙沼は人口6、7万の小さな港町だが、きちっとした歴史を持つ。津波で破壊されたのはどんな町だったのか。どんな人がどんなふうに暮らしていたのか。さまざまな方法論を使い、登場人物を交差させて重層的に描くことで、ようやく浮かび上がると考えた。
誰もが職業人として何ができるのか自問したはず。僕にとってはそれが小説だった。実際それしかできなかったし、生き残るための唯一の手段だったと思う。
<「揺らぐ街」は震災文学を巡るディスカッション小説。作中人物に「ニーズとは別に書かれるべき小説がある」「あの震災は何だったのか自分の中で決着をつけないと、容易には小説が書けない」と語らせた>
被災地を舞台に書く行為について一度総括する必要があった。3月11日のあの瞬間、日本中みんなの時計の針がいったん止まった。けれども直後から針が進みだすスピードは違ってゆく。今も動かせないままの人もいる。一番弱い立場の人に寄り添うのが小説だ。
実は「仙河海」に取り組む震災直後からの5、6年の間、ずっと津波の映像が目の前に浮かんでいて苦しかった。自分で自分の時計を止めていた。10年は大きな区切り。震災体験は一回葬った方がいい。そうしないと前に進めないと考えるようになった。
地元の読者にとっても読むのはしんどかっただろう。現実にリンクした小説を書いてきたが、僕はもともとエンターテインメントの書き手。今は現実のつらさを忘れられる思い切ったフィクションを書きたい。
<自らの文章の到達点と位置付ける連作短編集「希望の海 仙河海叙景」の幾つかは震災前日の描写で終わる。そこに一貫したメッセージが込められている>
震災で嫌というほど思い知らされたのは、日常はいともたやすく分断されるということ。今日と同じ明日がやって来るとは限らない。だからこそ何げない日々を大切にしたい。そう捉えてもらえるなら、とてもうれしい。
(聞き手は阿曽恵)
[くまがい・たつや]1958年、仙台市生まれ。97年「ウエンカムイの爪」で小説すばる新人賞を受けデビュー。2000年「漂泊の牙」で新田次郎文学賞、04年「邂逅(かいこう)の森」で直木賞と山本周五郎賞。河北新報などで「明日へのペダル」を連載中。同市在住。
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