社説(6/7):増える「在籍出向」/雇用維持に柔軟な対応を

 新型コロナウイルスの感染拡大で、業績が悪化する企業を中心に、従業員を一時的に別の会社に出向させる「在籍出向」が増えている。

 在籍出向は、従業員が元の会社に在籍したまま出向先とも契約を結んで勤務する仕組み。公益財団法人産業雇用安定センター(東京)によると、2020年度に同センターが仲介して成立した在籍出向は3061人。19年度の1240人から倍増した。異業種への出向が増えたことが特徴で、約半数に上った。

 厚生労働省の集計でも、2月に創設された在籍出向を支援する助成金の利用が5月14日時点で3343人に上った。出向元や出向先に日額上限で従業員1人当たり計1万2000円の賃金補填(ほてん)などができる新制度を活用した在籍出向者数が、前年度の年間実績を約3カ月で超えた形。異業種への出向割合はさらに増え、全体の約6割だった。

 助成金を利用した出向元は、感染拡大の打撃を受けた航空を含む運輸業・郵便業の1449人が最も多く、製造業の778人が続いた。出向先は製造業の883人が最多。運輸業・郵便業の646人が続いた。航空から、貨物トラックなどの運送業や、好調な分野の製造業に出向するケースが多かった。

 背景には業績不振に陥る業界と、好調で人手不足の業界の二極化がある。「以前は製造業間の出向が主だったが、サービス関連を含む異業種への出向が増えている」(同センター担当者)という。

 在籍出向は、経営難で人件費を抑えたい企業と、人手を確保したい企業の合意で成り立つ。在籍出向を推進するため、厚労省は労働団体や企業団体などでつくる都道府県単位の地域協議会設置を求めており、宮城県でも5月に設置された。

 同省によると、コロナによる解雇や雇い止めは全国で10万人に達し、東北6県でも8000人を超えた。雇用を維持する方策は多い方が良い。在籍出向は活用されるべき仕組みの一つだ。

 ただ、異業種出向が増える傾向にある中では、業務内容が大きく変わったり、給与などの労働条件が著しく厳しくなったりする可能性は否定できない。雇用維持を前提に出向者の負担をできる限り軽減するよう、出向元、出向先双方の配慮が必要だろう。

 一方で、コロナの収束に伴い、大きな「揺り戻し」が働く可能性がある。出向元の業績が回復し、従業員を呼び戻すことになると、今度は再び出向先の企業が人手不足に見舞われることにもなる。

 中には、出向先での仕事に新たな価値を見いだし、残留を希望する人もいるだろう。政府には、コロナによって大きく変動する労働環境の中で、働く人の働く場や働きがいを維持するため、企業が柔軟な対応ができるよう後押しする施策を取ってほしい。

関連タグ

河北新報のメルマガ登録はこちら

企画特集

先頭に戻る