コロナ下のインド「組合員は帰国、管理職は残留」 宮城出身のメーカー勤務男性、苦境訴え

男性が滞在するアパート。テレビでは連日、新型コロナによる死者を火葬する様子が伝えられる。テレビの右側は買いだめした食品=8日(男性撮影)

 「在外邦人の命を守ってほしい」。こんな切実な訴えが記されたメールが河北新報社に届きました。差出人は現在、インドで働いているという宮城県出身の40代男性です。インドでは感染力が強く重症化しやすい新型コロナウイルス変異株が最初に確認されました。コロナの脅威と背中合わせにある過酷な状況が、メールでのやりとりから明らかになってきました。

 男性の勤務先は、インド中西部で商都ムンバイを抱えるマハラシュトラ州にある生産用機械器具の製造会社。東北地方のメーカーから移籍する形で、家族を日本に残して5年前から単身赴任中とのことです。コロナ下の現在、生産ラインは平時の3割まで縮小。感染拡大を受け、派遣元のメーカーが4月、「組合員は帰国、管理職は残留」の方針を決めたそうです。

 管理職は男性を含めて3人。うち1人は母国韓国の政府の呼び掛けで既に帰国しました。「残留組の仕事は自宅アパートでの在宅ワーク。帰国しても業務に支障はない」と男性は指摘します。

 州の病院で5月、1回目のワクチンを接種した男性は、会場の光景に「まるで買い物でにぎわう市場。逆に感染を広めているのでは」と驚いたそうです。集まった人々の口元は「あごマスクとマスクなしが40%。感染対策の重要性の理解が進んでいないと感じた」とも。

 言わずと知れた香辛料の国で「日本人の口に合う食材は入手困難」。食中毒など別の感染症にも注意が必要なため、以前はタイやベトナムに半年分の食材や医薬品を買い出しに行く生活だったそうです。

 それもコロナ禍で移動が困難になり、買い出しは途絶えました。自宅近くのスーパーへの買い物も犯罪被害などの危険が伴うため、今は宅配サービスがあるインターネット通販を利用。「普通の買い物や食事ができず、感染におびえる毎日だ」と打ち明けます。

 記者とのやりとりで、男性は滞在先の街の様子を「詳しくは語れない」とすまなそうに告げました。記事でも匿名を強く希望し、身元が知られることによる雇用関係への影響も恐れていることがうかがえます。「衛生状態や交通事情、治安などの環境は劣悪。加えてこのコロナ禍。毎日、相当なストレスにさらされている」。過酷さを増すインドの労働環境が、多くの日本人に理解されていない無念さがにじみます。

 「各企業に判断を委ねると対応にばらつきが生まれ、声を上げにくい弱い立場の人が不利になる。小規模の会社ならなおさらだ。日本政府には残留邦人への一斉帰国などの措置をお願いしたい」と男性。メッセージは最後に「残留組も同じ人間。日本にいる家族も心配している。命に管理職も組合員もない。海外で働く国民の命を守ってほしい」と結ばれていました。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)などによると、インド進出日系企業は2020年時点で1455社。コロナ禍前の19年10月に約9000人だった在留邦人は現在、1000~2000人とみられています。

 在外邦人を政府チャーター機などで帰国させることはできないのでしょうか。外務省海外邦人安全課の担当者は取材に「インドと日本は直行便があり、韓国など直行便がない他国とは事情が異なる。生活拠点を完全にインドに移すなど在留邦人の状況もさまざまで、一斉帰国など移動の強制を図るのは難しい」と話しています。

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