<空き家で始める田舎暮らし>(上)楽園/通勤と無縁 自宅で温泉

コーヒー豆をひきながら、ゆったりとした時間を楽しむ三品さん

 野鳥のさえずりとともに目を覚まし、豆をひいてコーヒーを味わう。ランチで家族と食卓を囲んだら、映画を見るなどして1時間ほどのんびりする。午後は買い物に行ったり、趣味の写真撮影に出掛けたり。おやつ時には風呂場の窓を開け放って緑豊かな景色を眺めつつ、ビールを飲みながら温泉に漬かる。

 宮城県川崎町の青根温泉近くの別荘地に住むシステムエンジニア三品一則さん(47)の一日だ。仕事はホームページ(HP)の制作や保守などで実働4、5時間。おおむね午前中か夜の空いた時間にこなす。顧客との打ち合わせから納品までオンラインで完結するので、通勤とは無縁の生活だ。

 「鳥の声のほかは近くを流れる川の音だけ。時間に追われず、自宅にいながら通常の倍以上の500リットルの浴槽で毎日温泉に入れる。仙台市から移住して正解だった」。至福の時間が三品さんを笑顔にさせる。

 宮城県柴田町に生まれ、高校卒業後に電気工事士として働いた。24歳からは同県白石市の半導体工場に勤めたが、40歳を機に早期退職を選択。これからは好きなことをしようと、妻でヨガインストラクターの尚子さん(36)と車で日本一周に出た。

 2カ月間の道中、毎日パソコンでブログを書いていた三品さん。子ども時分から機械いじりが好きだったこともあって、HP制作を仕事にしようと思うようになった。帰県後の2015年、尚子さんが仙台市中心部に構えたスタジオの一角で会社を設立した。

 住まいは会社に近いJR仙台駅から徒歩数分の繁華街などを転々としたが、日本一周時に見た自然豊かな場所が忘れられなかった。いつかは田舎で暮らしたいと考えながら依頼に応えていると、仕事の特性もあって次第に顧客が全国に増えていった。「もう仙台市中心部にいる必要はない」。物件探しに動きだした。

 一口に田舎暮らしといっても、集落特有の濃密な人間関係は煩わしくもある。別荘地に絞って検討したところ、空き家所有者と移住希望者らをつなぐ川崎町の「空き家バンク」のHPで今の家を見つけた。

 18年5月、延べ床面積約75平方メートルの一軒家を家賃月5万5000円で契約。夢だった田舎暮らしが始まった。だが、大掛かりな補修作業などの困難も待ち受けていた。

 移住施策に力を入れる川崎町で、空き家バンク登録者のうち移住・2拠点生活希望者が20年度、前年度の2・8倍に急増した。新型コロナウイルスの感染拡大が背景にあるとみられる。「3密」がない自然豊かな地域は魅力的だが、田舎暮らしゆえの課題もある。三品さんの生活を通し、地方移住の現実を描く。
(生活文化部・桜田賢一)

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