精神疾患、若い世代に知識を 25歳以下の発症75%

 五大疾病の一つとして、重点対策が必要とされている精神疾患。若者の発症が多く、2022年度には、高校の保健体育の授業で約40年ぶりに取り上げられる。若年時に異変を感じていた仙台市の30~40代の当事者たちに、早期に正しい知識を得ることの大切さを聞いた。
(生活文化部・安達孝太郎)

 精神疾患を発症する人の75%は、25歳以下で発症するとされる。今は回復の道を歩む5人も10代で変調(表)があったが、受診は遅れた。

 33歳でパニック障害と診断された男性(47)は、20代から不眠に悩んだ。「不眠が精神疾患と関係があるかもしれないと知っていれば病院に行っていたと思う。原因を考えず、ずっとイライラしていた」

 19歳でうつ病と診断され、20代半ばで双極性障害(そううつ病)に診断が変わった女性(33)は最初の診断当時、「死にたい」という思いに駆られ苦しんだ。「命を絶ちたいと思う自分に罪悪感を感じ、つらかった。うつの症状と分かっていれば、もう少し希望を持てた」

 幻聴に悩み、20歳ごろで統合失調症と診断された女性(37)は、症状を自覚することの難しさを指摘する。高校を卒業する頃に医学書で幻聴の記述を読んだものの、「当時は聞こえていると確信していた」と説明する。

 高校の学習指導要領から精神疾患の項目が消えたのは1978年。「ゆとり教育」を進める中で、学習内容が絞りこまれた。

 しかし、文部科学省の中央教育審議会は2016年、若者の自殺が多いことなどを重くみて、現代的な健康課題の記述の充実を答申した。22年度から高校の授業で統合失調症やうつ病などが取り上げられ、誰もがかかり得ることや早期支援で回復の可能性が高まるといったことを、4時間程度で学ぶことになった。

 25歳で双極性障害と診断された女性(33)は「気持ちが落ち込んでいる時は、周囲に自分の状態を伝えるのは難しい。知識を教えるだけではなく、困っていることを語り合うグループ学習を取り入れれば、身近な人が異変に気付くことにもつながるのでは」と語る。

 うつ病などを経て、30歳で統合失調症と診断された女性(45)は「自分は家族関係の悪さが精神疾患の背景にあると思う。そうしたリスクも若者に知ってもらいたい」と訴える。

自らの偏見が回復の妨げに

 精神疾患からの回復の妨げになるのが、周囲や当事者自身の中にある偏見だ。23歳から精神科に通う介護施設職員上野雅彦さん(48)=仙台市=の回復の過程は、患っている統合失調症に対する自分の偏見をなくしていく道のりだった。

 上野さんは当初、主治医から病名を告げられていなかった。30代前半で偶然知り、苦しんだ。「統合失調症に負のイメージしかなかった。『人生が終わった』と思った」

 30代後半で就労移行支援事業所に通うようになって転機が訪れた。支援を受け、病を徐々に受け入れた。40代前半で就職した運送会社で心の通じ合う仲間に巡り合い、思い切って病気のことを打ち明けた。

 同僚は自然に受け止めてくれた。そして、自分も東日本大震災の津波で家族が亡くなり、精神的に苦しんだと語り始めた。上野さんは「理解してくれると思った人には、誠実に言えば伝わると思った。精神疾患に偏見があり前に進めなかった自分が変わるきっかけになった」と振り返る。

 主治医から最近、「上野さんを病気だと思ったことはない」と言われた。患者である前に一人の人間として接してくれたことに、「自分は自分らしく生きればいいんだ」と思えたという。

医療も連携、動画の教材開発

 精神疾患を高校で教える取り組みに、医療も連携し始めた。国立精神・神経医療研究センターなどの研究グループは、授業で活用できる教材「こころの健康教室サニタ」を開発し、インターネットで公開を始めた。当事者が回復するまでを語るインタビュー動画などを掲載しており、精神疾患を身近に感じることができる。

 東北大大学院の准教授時代に研究グループに加わった、こころのクリニックOASIS(仙台市青葉区)の松本和紀院長は「精神疾患を過剰に不安視すると受診が遅れる。こうした教材を通じて偏見をなくしてほしい」と語る。

 さらに「子どもの精神保健・医療にかかわる人材が不足している」と指摘。「教育の変化を、子どものメンタルヘルスについて議論を深める契機にしてもらいたい」と呼び掛ける。

「こころの健康教室サニタ」の画面。サニタはイタリア語で「心の健全さ」などの意味がある

[精神疾患]厚生労働省は2013年度、うつ病などの増加を背景に、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病の四大疾病に、精神疾患を加えて五大疾病とした。同省によると17年の精神疾患患者は約419万人で、五大疾病の中で最も多い。

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