社説(6/17):処理水の意見聴取/福島県民の声をすくい取れ

 東京電力福島第1原発の放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出方針に関し、政府は風評被害防止対策を探るため、福島、宮城両県の漁業関係など、各種団体からの意見聴取を始めた。意見聴取を「ガス抜き」の場に終わらせることがないよう、出された意見をしっかりと受け止めた上で、対策に反映させることが求められる。

 5月末、政府は福島市といわき市で、風評被害対策の作業部会を開催した。福島県漁連などからは、改めて海洋放出への反対が表明された。他の団体からは、風評被害対策の具体案が示されなかったことへの不満も出された。政府が4月に海洋放出方針を決定してから2カ月になる。まずは議論のたたき台を提示すべきだった。

 風評被害は、処理水処分を巡る最大の課題だ。原発事故から10年。福島では事故による風評被害が続き、水産業関係者らが払拭(ふっしょく)に尽力してきた。今回の海洋放出方針決定に際し、政府は風評被害対策で「前面に立つ」との姿勢は見せているものの、このまま具体策を示さないと、地元の不信感は増すばかりだ。

 実際、理解を求めたい政府の意向に反して、福島県内の自治体の議会では「海洋放出反対」の意見書決議が相次いでいる。

 相馬市議会は「原発事故後、風評被害は続いた。対策を取ると言うが効果は疑問」として反対意見書を可決。いわき市議会は処分方法の再検討を政府に求める意見書を可決した。

 これらは、漁業をはじめ農林業や観光業への風評被害に対する懸念の表れだけではない。県民はもとより、国民の処理水処分への理解が不十分なまま海洋放出を決めた政府への不信感も根底にある。

 相馬市議会の意見書は「処理水の最終処分方針は、議論を尽くさなければならない問題だ」と言及。いわき市議会の意見書は政府と東電が2015年に「関係者の理解なしにはいかなる処分もしない」と表明したにもかかわらず方針を決めたことに触れ、「極めて遺憾だ」とした。

 5月の意見聴取会では、水産加工業団体から、消費者対策を求める意見も出された。海外の海洋放出反対の意見の中には、誤解を招きかねない情報に基づいたものもある。世界各国の原子力施設からトリチウムが海洋に放出されている実情を知らない人も少なくない。

 トリチウムの放出は長期にわたる。風評被害対策に加え、環境や人体に与える影響について、人々の不安をどう取り除くのか。国内外への情報発信の強化も求められる。

 政府の作業部会は夏に中間報告をまとめ、年内に中長期行動計画を策定する方針だ。計画は、福島県民や影響を受ける可能性のある関係者が十分に納得できるものでなければならない。

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