社説(6/19):土地利用規制法/恣意的な運用許されない

 外国資本による土地の買収や利用を規制するのが本来の目的だったはずが、出来上がった法律は、「安全保障」を名目に国民監視を可能とする内容に変わってしまった。

 罰則を設けているにもかかわらず、対象となる行為や区域はあいまいなままだ。法律自体の必要性に疑問が残るだけでなく、恣意(しい)的な運用への懸念も膨らむ一方だ。

 自衛隊基地や原発など安全保障上、重要な施設周辺の土地利用を調査、規制する新法が成立した。野党が審議継続を求める中、成立を急いだ与党が採決を強行したことにも不信感が募る。

 新法は「重要施設」の周囲1キロや国境近くの離島を「注視区域」に指定し、土地の利用状況を調査すると規定。施設の「機能を阻害する行為」が判明すれば、中止勧告や命令を出し、従わなければ懲役刑や罰金を科す。

 さらに司令部機能を持つ自衛隊基地と無人の離島などは「特別注視区域」とし、一定面積以上の売買で双方に利用目的の事前届け出を義務化。これについても違反には、刑事罰が科せられる。

 だが、具体的にどこが対象となるのか、何が「機能を阻害する行為」に当たるのか、政府はほとんど説明していない。基地や原発といった施設も現段階で示されているものにすぎず、詳細はいずれも政令や基本方針で定めるとしており、対象が拡大されても国会のチェックは及ばない。

 さらに土地の利用状況の調査は、内閣府に新設する組織が担当することになっているが、公安当局などと「必要な分析をすることはあり得る」(小此木八郎領土問題担当相)とされる。

 これでは基地や原発の周辺での抗議活動まで違法とされかねず、言論・表現の自由の萎縮を招くのは明らかだ。

 特に米軍基地が集中し、国境離島も多い沖縄県では、多くの住民が一方的な情報収集に不安を抱いても不思議はない。

 法整備が検討された当初、主眼とされたのは外国資本による土地取得の規制だった。しかし、「サービスと貿易に関する一般協定」(GATS)により、外資だけを対象とするのは難しいとされ、法案は検討経過も定かでないまま変質していった。

 2016年に公開されたアニメ映画「この世界の片隅に」には戦時中、軍艦の行き交う呉港(広島県呉市)をスケッチしていた主人公が、憲兵から「間諜(かんちょう)行為」と糾弾される場面がある。

 当時の要塞(ようさい)地帯法が、軍事施設(要塞)周辺での写真撮影や写生まで厳罰の対象としていたからだ。

 土地の売買・利用に際し、事前に関係者の調査を定めた今回の新法について、専門家の間には「要塞地帯法の再来」と警戒する声も強い。恣意的な運用を許さぬよう、国民の厳しい政権監視が必要だ。

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