社説(6/20):大学発ベンチャー/東北の「知」で産業起こしを

 大学などの研究成果を生かし、新市場の創出を目指す大学発ベンチャー企業が増えている。経済産業省の2020年度調査によると、企業数は全国で前年度調査から339社増え、過去最多の2905社となった。
 目立つのはバイオやヘルスケア、医療機器やIT(情報技術)関連など。最先端の研究開発型が中心のため、本格的な事業化には長い時間や資金がかかるとされる。一方、新型コロナウイルス禍でも顕在化した多くの社会課題や深刻化する環境問題の解決に向け、革新的な技術と新ビジネスへの期待は高まっている。
 東北6県の大学発ベンチャーも29社増え、244社となった。こうした中から、社会変革を担い、東北の経済活性化につながる成長企業が生まれてほしい。
 20年度調査で大学別の企業数は東京大(323社)がトップ。京都大(222社)、大阪大(168社)が続く。国内の大学発ベンチャー数の伸びは一時鈍化したが、国が支援策を成長戦略に位置付けた近年は再び活発化し、起業の裾野も広がっている。
 大学別で東北大は145社で5位。17年度(56社)の2・6倍と、伸び率は全国でも高い。東北大が掲げるのが、起業の段階に応じた継ぎ目のないベンチャー支援だ。財源的基盤になったのが、東大など4国立大の研究成果の実用化を促す国の事業。東北大には本年度まで約10年間で150億円が措置された。
 東北大はまず、起業を検討する研究者らに事業性検証や試作開発などに必要な資金を供給する「ギャップファンド」を設けた。創業前は民間からの資金調達が難しく、研究と事業化の間にある空白(ギャップ)に対応した。
 さらに全額出資で投資会社を設立し、東北大発ベンチャーを支援する96億円規模のファンドを15年に創設。素材や電子デバイス分野など26社に投資した。起業家教育も強化しており、企業数の増加は取り組みの成果と言えそうだ。
 注目したいのは、東北大の仕組みと経験を広域で共有する動き。東北大などが20年に創設した80億円規模目標の2号ファンドは東北6県と新潟県などの国立大の研究成果の事業化を支援する。6県・新潟の9大学で活用できるギャップファンドも本年度、国の制度を利用し設けられた。東北の各大学でも起業が拡大するかどうか注目したい。
 ただ東北の大学から東北を本拠地に株式上場などに至ったベンチャーは長年出ていない。経済界からは「概して研究志向が強く、マーケットを意識したビジネスモデルが依然として弱い」との指摘もある。経営人材の不足も続く。
 国頼みは限界があり、起業家の努力が一層求められるが、産業界や金融機関、地域が果たす役割も大きい。産学官の連携で壁を乗り越え、東北で成功事例を育てたい。

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