<まちかどエッセー・深沢昌夫>猫のはなし

深沢昌夫[ふかさわ・まさお]さん 1963年盛岡市生まれ。東北大大学院博士課程中退。98年度歌舞伎学会奨励賞受賞。宮城学院女子大教授。同大学芸学部日本文学科長。専門は古典文学と芸能。著書に『現代に生きる近松-戦後 60年の軌跡』など。仙台市青葉区在住。

 2月22日は猫の日だという。だからニャンだというわけではないが、今や空前の猫ブームである。読者の中には犬好きの方もおられるだろうが、はっきり言って今、トレンドは猫である。ペットフード協会の飼育実態調査でも猫の飼育頭数は犬を上回っている。犬雑誌、猫雑誌の発行部数もしかり。だが、以前はそうではなかった。2007年に行われたNHKの世論調査では、日本人が好きな動物のトップは断然犬であり、第2位の猫の倍ぐらいのポイントを獲得していた。それが逆転するのは今から5、6年前のことである。
 実は私も昨今の猫ブームにあやかって「猫の文学史」を妄想、いや構想している。もう何年もかけて調査を行っているけれども、これがなかなか終わらない。終わらない理由は、江戸時代の資料が多すぎるからである。私の見るところ、これまでに3回、大きな猫ブームがあった。最初は10世紀後半から11世紀前半、つまり平安時代中期である。次が江戸時代である。17世紀後半から18世紀、19世紀と、途切れることなくさまざまな資料の中に猫が出てくる。それが明治の中頃になっていったん途切れ、平成の終わりから令和の今が3度目の猫ブームであると考えられる。
 これらに共通するのは「平和」である。日本のような災害頻発列島に平穏無事な時代などあろうはずもない。しかし国内外で戦争や戦乱がなく、政治的には長期安定政権が築かれ、経済的には低成長であっても人々がそれなりの豊かさを享受している、そんな平和な時代に猫ブームが起こっている。
 もしかしたら、日本人にとって猫は平和の象徴なのかもしれない。その魅力を一言で言えば、端的に「カワイイ」である。若い娘たちのように物事すべてを「カワイイ~!」で済ます気は毛頭ないが、時代の価値観が「強さ」や「逞(たくま)しさ」から「可愛(かわい)さ」「優雅さ」にシフトした時、有用性・有益性を超越した美的存在、あるいは愛すべき存在として、猫に注目が集まるのではあるまいか。
 そういえば、昨今の猫ブームに先駆けて世界中に「kawaii(カワイイ)」を知らしめ、はやらせたのも「キテ〇ちゃん」という名の猫であった。やはり、猫および猫ブームは一考に値する重要なテーマである…ような気がする。
(宮城学院女子大教授)

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まちかどエッセー

 仙台・宮城在住の執筆者が、それぞれの活動や暮らしで感じたことをつづります。


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