社説(6/29):安倍氏と原子力政策/「転向」の訳 国民に説明を

 表舞台から去った人の過去を言い立てるのは無粋だが、現役よろしく振る舞われるならば話は別だ。エネルギー政策を巡る安倍晋三前首相の最近の言動や行動は、在任時の政策と不整合ではないか。

 安倍氏は先頃、原発の新増設やリプレース(建て替え)の推進を目指す自民党議員連盟の顧問に就いた。初会合のあいさつで「エネルギー政策を考える上で原子力と向き合わなければならない」と原発の必要性を訴えた。

 東京電力福島第1原発事故後、7年8カ月にわたり続いた第2次安倍政権は、一貫して原発依存から脱却する姿勢を強調した。安倍氏自身も国会答弁で「原発の新増設は現時点では想定していない」と明言してきた。

 安倍政権下で政府のエネルギー基本計画は2014年(第4次)と18年(第5次)の2回改訂された。原発事故を踏まえ、第4次計画で「原発依存度を可能な限り低減する」と初めて明記し、その方針は現行の第5次計画でも維持された。一方、新増設やリプレースについては、いずれの計画でも言及はない。

 既存原発の再稼働は進めるが原発の数を増やさず、再生可能エネルギーを最大限導入する-。これが安倍政権のエネルギー政策の肝で、安倍氏も「内閣の一貫した方針」と繰り返していた。第2次政権下で実施された2回の衆院選と3回の参院選の公約にも反映された。こうした経緯がある以上、首相を辞めたとたんに前言を翻した「転向」の理由を国民に説明してしかるべきだ。

 安倍氏は19年参院選時の党首討論会で原発新増設への姿勢を問われ、ただ一人「認めない」に挙手をせず、「印象操作はやめた方がいい」と色をなした。本心は新増設やリプレースに前向きだったとしても、在任中に逆の政策を掲げ続けたことは事実だ。政策は本意でなく、今となっては誤りだったと国民に釈明するのが筋だろう。

 安倍氏の議連参加に、菅義偉首相が掲げる温室効果ガスの実質排出ゼロや脱炭素社会の実現を援護する意図があるとすれば、その印象は後押しより「後出しじゃんけん」に近い。なぜ自らの在任中には切り出さず、先送りや棚上げを続けたのか。その結果もたらされたのは原子力政策の混乱と停滞、石炭火力の延命、そして再生可能エネルギー拡大の出遅れだ。

 表舞台に戻る意欲があるのなら、原発事故の影響にあえぐ福島の復興に尽力してもらいたい。安倍氏は在任中5回の国政選挙全てで、第一声や初日の遊説の地に福島を選び「福島の復興なくして日本の再生なし」と訴え続けた。

 政権実績の一つである東京五輪招致の命運を握った福島を、安倍氏が最近訪れたとの話は聞かない。よもや「福島の復興なくして…」の前言も翻すつもりはあるまいが。

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