社説(7/5):刑事手続きのIT化/国民の権利 主眼に議論を

 刑事手続きのIT化に向けた議論が進んでいる。時代の要請であり、メリットも大きいため関係者の期待は高まっている。導入に際しては、捜査の秘密やプライバシーが十分に守られる手だても講じなければならない。
 民事訴訟手続きのIT化に関する検討が始まってから約3年。刑事手続きは、2020年7月に閣議決定されたIT新戦略に盛り込まれた。捜査、裁判のプロセスに関与する国民の負担軽減につながり、感染症の拡大時にも円滑、迅速な対応を可能とする観点から有用だとされた。
 今年3月に設置された「刑事手続きにおける情報通信技術の活用に関する検討会」の主な論点は、事件捜査の着手から裁判の判決に至る過程で作成される膨大な書類の電子データ化とオンライン化、各種手続きの非対面・遠隔化である。
 具体的には各種令状、調書や捜査報告書といった証拠類、冒頭陳述や弁論の要旨、公判調書、判決書などがデジタル化の候補に挙げられる。オンライン化によって書類の請求や発付といった手続きが簡略化されれば、全体的に刑事裁判の迅速化が図られる。
 特に初公判前、弁護士に開示される証拠類については閲覧、謄写、交付の作業が大幅に省力化され、防御権を行使するための証拠の検討に、より多くの時間を割くことができるようになる。
 新型コロナウイルスの流行に伴い、各方面、各分野でオンライン会議が多用されるようになった。容疑者・被告との接見、公判前整理、裁判員選任手続き、公判の傍聴などの場面でも活用できるかどうか今後、本格議論が始まる。
 検討会では、警察庁からの出席者が青森県警に赴任した経験を次のように紹介した。
 「下北半島の突端にある大間署は、最寄りの簡裁まで約1時間。裁判官不在の場合はさらに遠い片道約3時間という場合もある。雪でも降ろうものなら、その1・5倍は見込まねばならない」
 憲法で保障された容疑者の権利を守るため、警察署へと接見に出向く弁護士もまた同様の障壁を抱える。刑事司法関係者はそれぞれの業務や立場を理解し、将来を見据えた改革に尽力すべきだろう。
 細心の注意を払わなければならないのは、情報セキュリティーの問題である。デジタルデータはいったんネット上に流出すると、止めどなく拡散する危険性がある。刑事手続きであるが故に、被害者ら関係者の名誉、プライバシーに及ぼす影響は格段に大きいからだ。
 何より、業務の効率化が主眼ではない。公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利の確保を前提に、IT化が誰のためのものなのかを軸に据えて検討を進めてほしい。IT化で被害者、容疑者を含む国民の権利が後退するようなことがあってはならない。

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