LGBTの権利判断に慎重姿勢 裁判官研究会が議論

 最高裁司法研修所が昨年1月に開いた「複雑困難訴訟」に関する裁判官の研究会で、LGBT(性的少数者)などの訴訟を審理する際、司法が権利判断の規範(在り方)や基準を示すことに否定的な意見が相次いでいたことが、河北新報社の情報開示請求で分かった。新しい価値観が争点となる場面で、社会の反応や政治的影響を気にし、消極姿勢が目立つ裁判所の内情が浮き彫りになった。

 開示資料によると、今回の研究会は東京高裁の幹部判事が講師を務め、裁判官らが審理や判断の在り方について意見を述べ合った。性同一性障害の経済産業省職員が庁内の女性トイレの使用制限廃止などを国に求めた訴訟や、ヘイトスピーチ(憎悪表現)を巡る関連訴訟など、社会の注目を集めた近年の裁判が議論の中で多数例示された。

 経産省職員の訴訟は2015年に東京地裁に提起され、研究会が開催される直前の19年12月に職員側が勝訴。今年5月の控訴審判決で東京高裁は事実上の逆転敗訴を言い渡し、トイレの使用制限は適法とされた。

 LGBTの権利を議題に上げた裁判官は「旧来の価値観を持つ人たちを全く無視したような判断はできない」と指摘。判断規範の作り方によっては、一方への肩入れや感情移入があると受け取られかねないとの懸念に触れた。

 関連して別の裁判官は「(判断の規範は)その事案に限る形にした方が無難」と強調。打ち立てた規範が絶対的な基準として捉えられないよう「なるべく明文にしない」とする意見も出た。裁判所の情報収集能力には限界があるとし「不用意な判断は避けた方がいい」との発言もあった。

[複雑困難訴訟]判決時に規範や基準の提示の在り方が問題となるような、複雑で判断の難しい訴訟類型の総称。社会情勢の変化や多様化によって生じた価値観の衝突や専門性の高い科学的知見の対立などが争点となる。該当する訴訟は多岐にわたり、原発の許可取り消しや差し止めを求める裁判も含まれる。

 民族や人種への差別的な表現が争点となるヘイトスピーチ訴訟については、原告個人が直接受けた侮辱の問題に主張や立証を限定してもらうなど、政治的な問題への評価や判断を避ける「謙抑的(控えめ)な姿勢が重要だ」とする意見に複数の裁判官が同調した。

 これに対しては「国民が司法に何を望んでいるのかを考えると(消極姿勢には)疑問がある」との反論や「責任ある国家機関としての観点からすれば謙抑的な立場は基本だ」と擁護する意見など両論があった。

 裁判官研究会はテーマに応じて不定期に開かれている。最高裁は取材に「研究会は裁判官の自己研さんの機会を設ける目的で実施している」と説明した。

権利の回復優先を

【2月に共著「東北地方の性的マイノリティ団体活動調査報告書」を出した前川直哉・福島大教育推進機構特任准教授の話】性的少数者は新たな権利を要求しているのではなく、奪われた状態の権利の回復を求めている。規範の判断に慎重になるのは理解できるが、優先すべきは現に制限されている少数派の権利を守ることではないか。研究会の議論には、自分たちも少数派への抑圧を黙認してきた当事者の一人であるという視点が乏しいと感じた。新しい価値観の問題に関し、裁判官同士の率直な議論が行われていたこと自体は評価したい。

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