社説(7/10):被買収100人不起訴/検察の判断 不公平過ぎる

 2019年7月の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、東京地検特捜部は河井克行元法相から現金を受け取ったとして、公選法違反(被買収)容疑で告発された地元議員ら100人を不起訴とした。

 公選法は受領側も罪に問うと規定しており、一律不起訴は極めて異例の判断だ。

 特捜部は元法相側が一方的に現金を渡した事件であり、受領側の悪質性は低いとしているが、従来の選挙違反事件の処分と比べ、明らかに公平性に欠ける。検察が重視する「刑罰権の適正な行使」の観点からも疑問が残る。

 告発した市民団体は、検察審査会に審査を申し立てる方針だという。検察には引き続き捜査の検証が求められる。

 この事件で、東京地裁は先月、元法相に懲役3年の実刑判決を言い渡した。自民党の新人候補だった妻案里氏を当選させる目的で、広島県内の県議や市町議、首長ら100人に現金計約2870万円を渡したと認定された。

 東京地検の山元裕史次席検事は会見で「受領者はいずれも受動的だった。一定の者を選別して起訴することは困難で、適切でない」と説明。元法相に従属せざるを得ない地方政治家の立場や、押し付けられるように現金を渡された状況などを考慮したという。

 受領額は1人5万~300万円と幅広い。受け取った現金を返却した人と返そうとした人、そのまま使った人の違いもあり、どこで線を引くかは、難しい判断になることが予想された。

 だが、19年の青森県議選では5万円を受け取った元町議8人が30万~40万円の罰金刑を受けた。さかのぼれば5000円を受領した運動員に罰金10万円の略式命令が出た例もある。検察内部で「処分の基準が揺らぐ」との批判が出るのも当然だ。

 一方、首長や議員だった40人のうち、責任を取って自ら辞職したのは8人だけで、32人は今も現職にとどまり続けているという。公選法では罰金刑以上が確定すれば、公民権が停止して失職するが、32人は今回の不起訴で失職を免れる。この点でも著しく不公平と言わざるを得ない。

 受領側の多くは、渡された現金の趣旨が買収目的であったことを公判で認めている。

 公選法は被買収罪の法定刑を買収罪と同等の「3年以下の懲役」などと規定する。汚れたカネを受け取る行為が、渡す行為とともに民主主義を根本から腐敗させるからだ。

 検察幹部の間では「巨悪は元法相で、受領側は巻き込まれただけ」との見方が強く、被買収の立件には当初から消極的だった。

 検察の視点で描く事件の構図や見立てには、時に独善の落とし穴が潜む。10年に発覚した大阪地検特捜部証拠改ざん事件の教訓だ。未曽有の大規模買収事件に対し、検察が担うべき「正義」は、もっと重かったはずである。

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