社説(7/13):西村経済再生相の発言/締め付け もはや逆効果だ

 政府に逆らうなら、仕入れも資金も封じてやる。そんな発想が根本になければ、なかなか出てこない発言だ。

 新型コロナ対応を担当する西村康稔経済再生相が、酒類の提供停止に応じない飲食店に対し、取引先の金融機関や酒販業者から順守を促す「働き掛け」をしてもらう方針を明らかにした。

 野党のみならず与党内からも批判が噴出し、すぐ撤回に追い込まれたが、またしても菅義偉政権の高圧的な姿勢が露呈したと言うべきだろう。

 問題なのは、法的な根拠を欠いているだけではない。表面的には「お願い」を装いながら、仕入れ先や金融機関まで「締め付け」に動員しようとする政府の姑息(こそく)さ、陰湿さだ。感染防止に協力する機運もしぼませ、むしろ逆効果になったのではないか。

 西村氏は8日夜の記者会見で、酒類提供を続ける飲食店に関する情報を取引金融機関に伝え、順守を働き掛けてもらう考えを表明。仕入れ先の酒販業者に対しては取引の停止を求めると述べた。

 新型コロナ対応の特別措置法では、緊急事態宣言の対象地域で酒類を出す飲食店に対し、時短営業や休業を命令したり要請したりできる。違反者には罰則もある。

 しかし、間接的にであっても、本来自由であるべき民間の取引に介入し、飲食店の経営を圧迫するような手法は、特措法にも政府の基本的対処方針にも記載はない。

 飲食店は金融機関から資金を借りる「弱い立場」にあり、金融機関が飲食店の営業に注文をつける行為は独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」に当たる可能性がある。

 長引くコロナ禍で資金繰りに苦しむ飲食店にとって、金融機関からの「働き掛け」は「お願い」では済まされない影響力を持つに違いない。

 西村氏は9日午前には「飲食店への融資を制限するといった趣旨ではない」と釈明。酒の提供を停止した店との不公平感を解消するのが目的だとして改めて実施の意向を示したが、二階俊博幹事長らの厳しい注意もあり、方針転換を迫られた。

 一方、酒販業者に対する取引停止の要請は、国税庁などが8日付で既に関係団体に文書を出しており、当初方針通り実施するという。飲食店同様に苦しい経営を余儀なくされている業界だけに、過酷な要求と言わざるを得まい。

 そもそも東京都内などで時短や休業の要請・命令に従わない飲食店が増えているのは、実情に見合う額への協力金の見直しや支給遅れの解消が進まないせいで、経営的に追い込まれているからではないのか。

 この間の対策の不備を虚心に見つめ直せば、必要な施策は容易に見つかるはずだ。感染拡大が懸念される東京五輪・パラリンピックを目前に、冷静さを欠いているように見えて仕方ない。

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