一力遼の一碁一会 「感想戦」 敗因を突き止められる

一力遼の一碁一会

 囲碁や将棋の棋士は、対局が終わった後に一局を振り返る「感想戦」を行います。勝敗を争った者同士が、直後に意見交換をするのは不思議に思えるかもしれません。そこには、棋戦ならではの理由があります。

 例えば、野球で「あの場面では送りバントをするべきだった」と言っても、実際に打者がバントを成功させられるか、また走者を進めても得点できたかどうかは分かりません。スポーツでは試合の中でミスがあっても、他の方法が必ず良い結果につながるわけではないのです。

 一方、囲碁は「あの局面ではこの手を選んでいれば勝っていた」という検証が可能なのが特徴です。対局中は「待った」ができませんが、検討では勝負の分かれ目となった局面から何度でもやり直し、敗因を突き止めることができます。終局直後は対局中に考えていたことを鮮明に覚えているため、すぐに振り返ることが大切なのです。

 最近は人工知能(AI)の登場により、感想戦の風景も変わりました。対局者同士の検討に加え、「この局面をAIはどう判断していたか」と他の棋士に聞くことが増えました。対局中に感じていた形勢とAIが示す数値が懸け離れていたり、人間が思いつかないような手を提示されたりするケースも多々あります。

 ただ、AIも全てが分かるわけではありません。5月の棋聖戦Sリーグ、山下敬吾九段(42)との対局では、多くの石が複雑に絡み合う局面が長く続きました。勝負には勝ちましたが、中盤の攻防はAIでも正確な判断ができないほど難解で、感想戦では多くの変化図を検討しました。

 中には40手以上に及ぶものもありました。それは最後に相手(白)からの絶妙手があり、その進行を選ばれたら黒が負けていたという図でした。感想戦は2時間ほど続きました。午前10時に始まった対局が終了し、会場を後にしたのは午後11時すぎでした。

 点数や時間で勝敗が決まるスポーツと異なり、囲碁は敗者が負けを認めることで決着します。そのため、感想戦では相手に配慮し、勝者が喜びを爆発させることはありません。感想戦は一局を振り返りながら互いを尊重し合い、反省点を次に生かすための時間なのです。
(囲碁棋士)

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