河北春秋(7/16):民家から切り取った白壁の一部が広島市の広…

 民家から切り取った白壁の一部が広島市の広島平和記念資料館にある。真っ黒な細い線が流れ落ちるように、幾筋も、くっきりと白壁に残っている。原子爆弾投下の直後に降った黒い雨の痕跡だ▼次のような説明がある。「黒い雨は粘り気があり、浴びた人の衣服などには黒い斑点模様が残った」。絵も並んでいる。絵に描かれた被爆者たちは衣服がほとんど焼かれ、半裸の体には誰もがひどいやけどを負っている▼道に倒れ込み、水たまりに群がり、あるいは、天を仰いでいる。「六日朝 黒イ雨ガ降リダシタ 道路ノ水タマリノ水ヲノンデイル 皆大キナ口ヲアケテ黒イ雨水ヲノンダ」。絵に添えられた文章は、黒い雨による被爆の悲惨を語って生々しい▼黒い雨を浴びたのに、国の援護が受けられないとして訴えた裁判。広島高裁が地裁に続いて原告の主張を全部認めた。雨によって健康被害が生じる可能性があれば被爆者に認定すべきだという判決。一審よりも踏み込んだ▼原爆投下から間もなく76年。提訴から一審判決までに原告84人のうち12人が死去し、控訴審判決までさらに2人が亡くなった。雨が降った場所の特定を巡って国が住民と争う時間はもうない。その必要もない。「原告以外の人も含めて救って」という原告の声が胸に響く。(2021・7・16)

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