社説(7/18):最低賃金28円アップ/政権主導の決定 禍根残す

 本年度の地域別最低賃金の改定で、中央最低賃金審議会は各都道府県の時給を一律28円を目安に引き上げるよう、田村憲久厚生労働相に答申した。引き上げ額は過去最大。実現すれば全国平均は930円となり、全都道府県で800円を上回る。
 引き上げ自体は妥当であり、低賃金で働く非正規労働者らの処遇改善という点でも一歩前進と評価できる。
 だが、菅義偉首相の意向を色濃く反映した政権主導の結論には、経営側が「政府方針の追認」と反発を強めている。決定過程からも景気回復の現状を慎重に見極めることなく、次期衆院選向けの成果を狙い、安易な政策誘導に頼ったのではないかという疑念が拭い去れない。
 最低賃金の引き上げは、財政支出がなくても実施可能な貧困対策であり、世論にも受けやすい。菅首相は経済財政諮問会議などで繰り返し大幅引き上げを主張。6月に閣議決定した「骨太の方針」にも「早期に全国平均1000円を目指す」と明記していた。
 経済界には、審議入り前から「引き上げありき」の政権の姿勢に警戒感が広がった。答申決定の際には、全員一致が慣例の審議会で経営側委員が異例の採決を求め、経営側4人が反対を表明。日本商工会議所など中小企業3団体は「決定のあり方自体に疑問を抱かざるを得ない」と批判するコメントを発表した。
 最低賃金は厚労相への答申を踏まえ、都道府県ごとに地方審議会が協議。8月ごろに改定額をまとめ、10月ごろに新しい最低賃金が適用されるのが通例だ。しかし、今回は中央審議会でのしこりが、地方審議会の協議に影響する可能性がある。
 そもそも現状では最低賃金の引き上げが、経済の活性化に有効かどうかも一概には判断できない。
 第2次安倍晋三政権では年3%を目標に掲げ、2016~19年度は実際に3%超の引き上げが続いた。首相が自ら企業に賃上げを呼び掛ける「官製春闘」と並んで、アベノミクスの柱とされたが、大規模な金融緩和などと合わせても「経済の好循環」は一向に生まれていない。
 賃金の上昇は、生産性向上の成果配分として実現されるのが本来の姿だ。最低賃金もそれと歩調を合わせて社会的公平性の観点から、引き上げられていくべきだろう。
 人件費の負担増に耐えられなくなった企業が、相次いで解雇に踏み切るようなことになってはまさに本末転倒だ。苦境に立つ企業の雇用維持を後押しする支援策の強化が求められる。
 政策誘導による引き上げは働く人の生活支援としては大きな意味を持つだろうが、構造的な格差やコロナ禍による窮乏への対応には、やはり限界がある。十分な財政支出の裏付けを要する社会保障と混同してはなるまい。

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