社説(7/19):文化芸術活動への助成/創作の自由度 狭めぬ運用を

 文化芸術活動への公的助成の在り方を考える上で、注目すべき判決が先月あった。
 映画「宮本から君へ」の出演俳優が麻薬取締法違反罪で有罪が確定したことを理由に、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」(芸文振)が助成金の交付を取り消したことについて、東京地裁は不交付処分の取り消しを命じた。
 助成はあくまでも作品に対してなされるものであり、出演者らの違法行為とは切り離して考えなければならない。 芸文振は俳優が逮捕された後、他の俳優に替えての再撮影や、出演場面を削除する再編集、助成金の内定辞退などを映画製作会社に打診。会社はいずれも拒否した。
 製作者の意に沿わない俳優の変更や再編集は、表現の自主性を損なうものだ。過度の介入は作り手の萎縮につながりかねない。芸文振の裁量権の逸脱を認めた判決は妥当だと言えよう。
 裁判で、芸文振は不交付の理由に「公益性」を挙げ、助成金を交付することで「国は薬物使用に寛容だ」との誤ったメッセージを与えかねないと主張。俳優の有罪確定後には助成金交付要項を改定し、公益性の観点から不適合と認められる場合には助成金の内定・決定を取り消すことができるとした。
 萩生田光一文部科学相も判決を受けて「どういう時に公的支出が望ましくないか、ガイドラインの検討を指示した」と述べた。
 今回の判決は、軽々に公益性を根拠に不交付とすべきではないと警鐘を鳴らした。公益性は多義的な概念だけに、ガイドラインの策定に当たっては、今回の判決を踏まえた上で、表現活動をする人たちの自主性をできる限り尊重することが望まれる。創作の自由度を狭めるような運用は避けなければならない。
 「宮本から君へ」の助成金は1000万円で、製作予算の約8分の1に当たった。判決では、不交付によって新たな資金調達が必要なことになったことにも触れ、映画製作への影響は小さくないと指摘した。
 文化芸術活動に携わる団体や個人の多くは、経済的に恵まれていると言えず、助成金に頼らざるを得ないのが実情だ。新型コロナウイルスの感染拡大は、制作、公演などの中止や延期といった形で追い打ちをかけた。コロナ下の厳しい経済環境で公的助成が果たす役割は大きい。
 助成制度は、芸術性に富んだ活動を支援し、多様な文化を守るためにある。若手に創作の機会を与えることで、将来の作り手も育成する。そうした営みの積み重ねが、国民の生活に潤いを与え、豊かさをもたらす。
 文化芸術活動への公的助成はどうあるべきなのか。今回の判決を機に、改めて議論を重ね、認識を深めることも必要だろう。

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