社説(7/20):鳥獣被害対策/動物と農山漁村の共存を

 農作物を食い荒らすため害獣と称される野生鳥獣を、地域の財産に変えようとする動きが各地で広がっている。
 野生鳥獣による農作物被害は全国で158億円(2019年度)に上り、このうちシカとイノシシが99億円を占める。獣害は営農意欲の減退や耕作放棄の増加を招いており、看過できる状況にない。
 野生鳥獣の増加により希少植物の食害や森林の下層植生の消失に伴う土壌流出、車両との衝突事故も生じている。農山漁村にとっては深刻な問題で、農業と生態系のバランスを考えた対策が必要だ。
 被害を食い止めようと、各自治体は捕獲に力を入れている。農林水産省などによると、全国での捕獲数はシカが14万頭(00年)から60万頭(19年)に、イノシシが15万頭から64万頭に増えた。
 駆除動物の肉は処理費用がかさむため、ほとんどが廃棄されてきた。東北では東京電力福島第1原発事故の影響でシカ、クマなどの出荷が制限され、せっかく捕獲しても廃棄せざるを得なかったという事情もある。
 岩手県大槌町では昨年5月、県内初となるジビエ(野生鳥獣肉)の処理加工場が操業を始めた。町と猟師、飲食店などが連携して獣害の減少や観光資源の創出、人材育成を図るジビエサイクル構想の中核施設となっている。
 町の農作物の獣害は年約1000万円に達するが、駆除を担う猟友会員は高齢化などで減少している。こうした地域課題の解決に取り組んでいるのが、加工場を運営する「MOMIJI」と、ジビエや狩猟に関するプロモーションなどを手掛ける「ソーシャル・ネイチャー・ワークス」という地元企業だ。
 MOMIJIでは、捕獲したシカをすぐ加工場に運ぶ。素早く丁寧な血抜き処理をするため、臭みのない良質な肉を提供できるという。電解質殺菌や県の放射性物質検査を全頭行い、安全性を確認して出荷している。
 ソーシャル社は、体験企画「大槌ジビエツーリズム」を始めた。狩猟や解体の見学、ジビエを使った食事、ハンターら地元の人との交流を通じ、自然の豊かさや命の循環について参加者に実感してもらうことにしている。持続可能な地域を築くための取り組みとして注目したい。
 国内の動物園では、駆除されたイノシシなどを丸ごと餌として与える「屠体給餌(とたいきゅうじ)」の取り組みが広がっている。
 肉食動物にとって野生で狩りをする感覚を取り戻し、ストレスを軽減する効果があるとされる。捕獲動物の廃棄を減らすことにつながるだけでなく、来園者に獣害問題について広く考えてもらうきっかけにもなる。
 捕って終わりではなく、命をいただいて生をつなぐという営みを通じ、動物と人、地域社会が共存していくすべを捉え直していきたい。

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