「震災10年 あしたを語る」 劇作家 平田オリザさん 自立とは何か 今こそ賢治の思想を

平田オリザさん

 世界を覆った不条理な悲しみ。人々は人間の力を信じ、未来を見詰め、踏みだした。歩みを重ねて10年。東日本大震災を語ることは癒やしや励ましだった。困難を乗り越える力だった。悲劇を繰り返さない誓いであり、連帯だった。だから、われわれは語り続ける。

 <東日本大震災直前にフランスで宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の子ども向け舞台を制作した。震災発生時はフランスで巡回公演が行われている最中だった>
 私は震災時、東京で別の作品の稽古中だったが、「銀河鉄道の夜」に「カムパネルラ、髪がぬれているよ」といった津波を思わせるせりふがある。震災で作品の意味が変わり、フランスで多くの支援が寄せられた。
 震災では家族や友人を亡くした人が多かった。大切な人の不条理な死を受け入れるのに、銀河鉄道が宇宙を旅するほどの長い時間がかかることを賢治は描いている。
 震災から5年は月1回ペースで東北を訪れた。日本は地縁血縁が強いという幻想があるが、地域も企業も共同体が崩れており、東北は典型だ。文化には孤立する人を社会に包摂し、緩やかなつながりをつくる力がある。

 <ふたば未来学園高(福島県広野町)で2015年の創立以来、演劇授業を続ける>
 震災前からいわき総合高(いわき市)の授業に関わる流れで、小泉進次郎さん(当時復興政務官)に「学園応援団に加わって」と声を掛けられた。「名前だけでなく、きちんと授業させてほしい」とお願いして引き受けた。
 生徒に現実を直視する演劇を作ってもらっている。最初は東京電力福島第1原発事故によるいじめや風評被害のテーマが多かった。芸術は隠された差別を可視化し、問題の解像度を上げるのに役立つ。
 あえて「難民」と言うが、原発事故で福島県民という難民が突如生まれ、島国日本に初めて難民問題を突き付けた。ドイツで制作したオペラ「海、静かな海」(16年)で福島に残った人、離れた人の双方を描いた。分断が今も続く福島は、一企業に依存した熊本県水俣市と似ている。水俣は地域が融和する「もやい直し」に50年かかった。芸術家はそのスパンで語る存在だ。福島の子どもに関わることに覚悟を決めている。

 <復興や地方活性化に文化的センスを身に付けた人材育成の必要性を訴える>
 東北は人材やエネルギーの供給地だった。付加価値を生む人材を東京が握り、地方は文化的に収奪されている。少子高齢化の矛盾が集約された東北は、元に戻すだけでは元に戻らない。地域の付加価値を高めて再生していく以外にない。
 阪神・淡路大震災時に比べ、東日本の時は文化的発信が弱かった。井上ひさしさんが前年に亡くなったのは返す返すも残念だった。
 「自立とは何か」から考えることが重要だ。賢治は「技術だけでは農民は幸せになれない」と思った。何を作り、どう価値を付けて売るか。その感性を磨く文化芸術活動を行おうとしたのが、羅須地人協会だった。東北に今こそ賢治の思想が大切だ。
(聞き手は会田正宣)

[ひらた・おりざ]1962年、東京都生まれ。国際基督教大卒。こまばアゴラ劇場芸術総監督、劇団青年団主宰。今年4月から芸術文化観光専門職大学長。「東京ノート」で岸田国士戯曲賞受賞、著書「新しい広場をつくる」など。兵庫県豊岡市在住。

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