社説(7/22):ワクチン接種証明/功罪に目向け慎重な運用を

 安心感を生むお墨付きとなる半面、不当な差別につながりかねない。新型コロナウイルスワクチンの接種証明は、功罪両面を併せ持つことを認識し、慎重に運用すべきだ。

 海外渡航者向けに接種歴を国が証明する「ワクチンパスポート」の申請受け付けが26日に始まる。入国審査のほか、宿泊施設などを利用する際に提示。入国後の隔離が免除、緩和される利点がある。取得目的が海外渡航かどうかは、市区町村の申請窓口で確認する。

 接種証明の必要性は経済界が唱えた。経団連はワクチンパスポートの用途を国内にも広げ、イベントの入場制限緩和、宿泊や飲食代金の割引などへの活用を政府に提言している。

 一方、観光・飲食業界では接種効果に着目した独自の動きが先行する。接種券に記載される「接種済証」を示せば、利用代金を安くする「ワクチン割」が名古屋、広島両市などで始まっている。

 コロナ禍に見舞われて以来、経済活動は萎縮を強いられた。立て直しの鍵はワクチンが握っているだけに、接種を終えた人たちを経済活性化の原動力と期待している。

 接種によるメリットを、当事者と観光・飲食業界、関連する取引先が生かす「三方良し」となる取り組みだ。とはいえ、ワクチン接種は強制ではなく、個人の判断に任されており、デメリットも念頭に置く必要がある。

 フランスでは感染力が強いとされるデルタ株の流行阻止を目的に、来月から接種完了か陰性の証明がなければ、飲食店や大規模商業施設、病院などが利用できなくなる。鉄道やバス、飛行機を使った長距離移動にも証明が必要で、接種していない人は日常生活に支障が出ることになる。

 英国のジョンソン首相も今週、大人数が集まるイベントやナイトクラブに入場する際の条件としてワクチン接種の完了を求める考えを示した。

 こうした政策は、半ば強制的に接種を迫っているに等しい。接種しない人たちを差別し、窮地に追い込む危険をはらんでいる。

 国内でも同調圧力が強まらないか危惧される。

 接種を1回受けた人の割合は3割程度だが、いずれは未接種者の方が少なくなる。接種を雇用継続やホテル、飲食店などの利用条件とするなど、接種を促す優遇策が少数派の人たちを冷遇したり、排除したりすることにつながらないか、注意を払いたい。

 ワクチンパスポートは欧州など30カ国以上で使用できる見通しだ。隔離の免除、緩和は渡航先のみで、日本に帰国した後や相手国から入国後は従来通り隔離される。

 ワクチン接種率が半分にも満たない上に、デルタ株による感染が各地で広がっている。パスポート発行に伴い、経済活動は拡大するが、水際対策の緩和は早計だ。

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