河北春秋(7/23):式典が終わり、学徒兵が次々にゲートに向け…

 式典が終わり、学徒兵が次々にゲートに向けて行進し始めた。その瞬間、スタンドを埋めた女子学生の列がいきなり乱れた。泣きながら雪崩を打って、ほとんど衝動的に、女生徒が学徒兵のそばに駆け寄ったという▼作家の杉本苑子さんもその中にいた。『私たちが生きた20世紀』(文春文庫)に『学徒出陣』と題し、1943年10月、冷たい雨の出陣学徒壮行会の模様を書いている。壮行会が開かれたのは明治神宮外苑競技場、後の国立競技場だ▼21年後の10月、東京。同じ場所に立った杉本さんは「オリンピック開会式の進行とダブって、出陣学徒壮行会の日の記憶が、いやおうなくよみがえってくる」と『あすへの祈念』と題して書いた。同じ場所、同じ年頃の若者。それなのに「何という意味の違いであろうか」▼今夜、1年遅れの2020東京五輪の開会式が新しい国立競技場で開かれる。戦火、学徒出陣、敗戦、復興。歴史の記憶を二重写しにテレビの中継を見れば、平和の祭典が持つ意味合いもよりくっきりと浮かび上がりそうだ▼英文学者の別宮貞徳さんが翻訳の楽しさを「表面は多様なのにどの民族も心は同じ。それをまざまざと実感させてくれる」と書いていた。大会をテレビで観戦しながら別宮さんと同じ思いに浸りたいものだ。(2021・7・23)

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