<仙台いやすこ歩き>(145)土井精菓 レモンパイ/フレッシュさ追い求め

 「なんかこう、すぱーっとして甘いもの食べたくない?」。画伯も大きくうなずき、いやすこメモから出た答えへと、2人は動きだす。

 JR仙石線に乗って30分弱、西塩釜駅で降りて通りすがりの若者にお店の名前を告げると、「すぐそこですよ」と教えてくれる。よく見れば、駅の階段を下りてすぐに「土井精菓」(塩釜市)の看板があった。

 以前に見た時と建物が違うなと思ったら、出迎えてくれた土井忠さん(59)が、東日本大震災とその後の余震で地盤から建物まで影響が出たため、隣接する土地に新築したのが今のお店だと、早速教えてくれる。

 入り口まわりのラベンダーやオリーブも美しく、クリームベージュの建物とともにすてきな洋菓子店のたたずまい。中に入るとお目当ての「レモンパイ」をはじめとするケーキたちが並び、2人はがぜん元気になってくる。

 創業は1955(昭和30)年で、土井さんは2代目。「父・精吾郎が戦後、仙台市苦竹にあった進駐軍の製菓部にいて、そこでパイ作りを覚え、店を開きました」。創業当時からのコーヒーロールとともに看板メニューであるレモンパイ。取材中もお客さんが買い求めにやって来る。母娘( おやこ )連れがきた時はショーケースの中にはなく、「あら、レモンパイなくなったの?」。「4カットあります」というスタッフの返事にお母さんもうれしそう。そんな1こまからも、いかに人々に愛されているかが分かる。

 「父から受け継いだレモンパイ作りは、手間暇を惜しまず仕込むこと、フレッシュさにこだわることです」。パイを延ばすのは大理石の上。聞けば、大理石だと温度が保たれ、風味が損なわれないのだそうだ。材料もフレッシュバターを使い、レモンも使う直前に電解水で洗って搾る。「空気に触れるとすぐ風味は変わるからです」。一つ一つの伝統には、きちんとした理由があるのだ。66年の歴史の中で、長男として初代を継いで約30年という土井さんは、「変えていけないものは、変えてはいけない。丁寧な手の営みを繰り返すことの大切さがここにきて分かってきました」と笑う。こうしたことは、お客さんからも教えてもらったと話す。

 さて、そのレモンパイ作りは、店の売り場に続く工場で朝4時に仕込みをスタートさせる。手作りしてサクッと焼き上げたパイに、フレッシュなレモンクリームをたっぷり盛り、さらにふわふわのメレンゲをのせて焼き色をつける。出来上がりは朝9時。出来たてを買いに来るお客さんも多いそうだ。ここで作り、ここでお客さんに手渡す、そのこともフレッシュさへのこだわりだ。

 土井精菓の「精」は、宮大工だったというおじいさんが長男の菓子店創業に向け、精魂込めて菓子作りに励むようにと、この字を薦めたという。

 そうした真摯(しんし)な思いが、目の前のレモンケーキには注がれているのだ。ふわっとしたメレンゲは軽やかで、その断面のきれいなこと。そしてきた~! レモンクリームのすぱーっと爽やかな味、サクサクのパイ。おいしさの3重層に、もくもくっと元気も湧き上がる。

おぼえがき/印原産 明治時代に日本へ

 レモンの原産地は、2500年前の栽培が記録されているインド北西部が有力とされる。10世紀ごろには地中海沿岸に広がり、15世紀にはヨーロッパで広く栽培される植物となった。日本では1875(明治8)年、レモンの苗木が本格的に導入された。

 柑橘(かんきつ)類の一種で、特に豊かな香りや酸味を薬味や風味づけに用いる、香酸柑橘の代表がレモン。その酸っぱさを感じさせる成分はクエン酸であり、全食品の中でも飛び抜けて多く含む。クエン酸の効能は疲労回復、美肌、血流の改善、抗酸化作用。

 またビタミンCについてはレモン1個につき50ミリグラムと、柑橘類の中で最も多い。ビタミンCの効能はコラーゲンの生成を助けることによる美肌効果や、骨の強化、抗酸化作用による免疫力の強化がある。さらに香りの主成分であるリモネンには、食欲増進効果やリラックス効果がある。

 レモンパイの起源は古代ギリシャと考えられているが、現在の一般的なレモンパイは19世紀に誕生している。

 土地には、その土地ならではの食があります。自他共に認める「いやすこ(仙台弁で食いしん坊のこと)」コンビ、仙台市在住のコピーライター(愛称「みい」)とイラストレーター(愛称「画伯」)が、仙台の食を求めて東へ、西へ。歩いて出合ったおいしい話をお届けします。

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仙台いやすこ歩き

土地にはその土地ならではの食があります。自他共に認める「いやすこ(仙台弁で食いしん坊のこと)」コンビ、仙台市在住のコピーライター・みうらうみさんとイラストレーター・本郷けい子さんが仙台の食を求めて東へ、西へ。歩いて出合ったおいしい話をお届けします。


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