<まちかどエッセー・小川直人>オリンピックと記録映画

 おがわ・なおとさん せんだいメディアテーク学芸員。1975年仙台市生まれ。東北大大学院教育学研究科修了。メディアテーク開設準備段階から携わり、映像文化を中心にアーカイブや図書館に関する事業に取り組む。宮城大特任准教授。個人でも上映会や本の制作などに関わる。青葉区在住。

 優れたSFは未来の現実を先取りする。登米市出身の漫画家・映画作家の大友克洋監督が30年以上前に映画「AKIRA」(1998年)でそれを活写した、いわば想像力に先取りされていた東京オリンピック2020。スポーツと平和、そして東日本大震災からの復興の象徴ともされた今回の祭典は、多くの人々の記憶に何を残すのだろう。
 あまり知られていないことかもしれないが、1912年のストックホルム大会以降、オリンピックのたびごとに公式記録映画が作られており、現在ではその多くがインターネットを通じて公開されてもいる。映画史においては、「民族の祭典」として知られるレニ・リーフェンシュタール監督によるものが有名だ。「ヒトラーのオリンピック」とも言われた1936年のベルリン大会を描いた作品だが、人間が走り、跳ぶという、運動の美そのものを映像に捉えた傑作であることは間違いないだろう。
 多くの日本人にとっては、やはり1964年の東京オリンピックを記録した市川崑監督の「東京オリンピック」である。最初は「羅生門」「七人の侍」などで知られる黒澤明監督が起用されたが降板、代役として「野火」「黒い十人の女」の市川監督が抜擢(ばってき)される。だが、競技の記録よりも人間ドラマに重点を置いた映画に仕立て上げたことを、試写を見た当時の河野一郎オリンピック担当国務大臣が公に疑問視したことで物議を醸した。
 一方で、カンヌ国際映画祭で国際批評家賞を受賞したほか、2300万人以上が見た、国内では稀(まれ)に見る観客動員数を誇る作品でもある。それはもしかしたら、オリンピックという祭典を通じて、戦後から復興した日本の姿を見ようとした当時の国民の夢と重なっていたからかもしれない。あるいは、ある時代まで近代オリンピックとは、そうした夢を託しながら世界を回る文字通り聖火のリレーだったのかもしれない。
 さて、「AKIRA」はともかく、今回の東京オリンピックも、これまでと同様に公式の記録映画は撮られている。選ばれたのは現在の日本を代表する映画作家の一人である河瀨直美監督。優れたドキュメンタリー映画を数多(あまた)撮った彼女ならば、2度目の東京オリンピックをどのように描き出してくれるだろうか。(せんだいメディアテーク学芸員)

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まちかどエッセー

 仙台・宮城在住の執筆者が、それぞれの活動や暮らしで感じたことをつづります。

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