<まちかどエッセー・小川直人>ファストから少し離れて

 おがわ・なおとさん せんだいメディアテーク学芸員。1975年仙台市生まれ。東北大大学院教育学研究科修了。メディアテーク開設準備段階から携わり、映像文化を中心にアーカイブや図書館に関する事業に取り組む。宮城大特任准教授。個人でも上映会や本の制作などに関わる。青葉区在住。

 「読書百遍、意おのずから通ず」。難しい文章も繰り返し読めば自然と理解できるという意味だが、近頃はそんなことを諭す人は少ないどころか、名著も100分くらいで解説するほうが重宝される時代である。一語一語かみしめながら骨のある書物を読むのは、時間がある人の贅沢(ぜいたく)、あるいは、情報過多の現代においては何事も「ファスト」(手早く)が好まれるということかもしれない。フードもファッションもファストである。
 近年の映画界隈(かいわい)においても、物語を数分に要約して紹介する「ファスト映画」と呼ばれるユーチューブ動画が現れ一時人気を博した。しかし、この夏には著作権法違反で摘発されるまでに到り、そのニュースを覚えている方もいるだろう。研究や仕事のために大量の映画を見なければならないならともかく(いや、そうであったらなおさらファスト映画など見てはいけないが)、関心や娯楽の対象として映画を見る多くの人々には、結末だけ分かっても楽しみがそがれるだけではないか。それとも、ここでも案外ファスト化が進んでいたということだろうか。
 しかし、それとは違う向きもある。私の記憶では2015年の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(ジョージ・ミラー監督)あたりから、最近では「シン・エヴァンゲリオン劇場版」(庵野秀明監督/2021年)など、大ヒットした作品には、映画館で立て続けに何度も見る観客の存在が無視できない。見た人々がその回数を競って会員制交流サイト(SNS)に投稿したり、歌舞伎の大向こうのように観客がスクリーンに向かって声を上げられる「応援上映」が設けられるなど、一度入れば一日中見ていられた昭和の映画館とは違う意味で、同じ映画を続けて見る文化が生まれている。
 ところで、私の友人に、何十年も同じ映画を繰り返し見ている人がいる。家でも見るし、リバイバル上映があれば映画館にも駆けつけるというその人は、伝統芸能に親しむかのように、物語を知り尽くした上で毎回感動するのだ。いつでも新作に気もそぞろの私とは違い、人生の一本を見つけた人の幸福。「読書百遍、意おのずから通ず」のもうひとつの意味は、むやみな乱読よりも、良いものを選んで熟読せよという戒めであったことを思い出した。
(せんだいメディアテーク学芸員)

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まちかどエッセー

 仙台・宮城在住の執筆者が、それぞれの活動や暮らしで感じたことをつづります。

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