企業進出、人材奪い合う(1)富県戦略<耕論・宮城知事選>

 村井嘉浩宮城県知事の任期満了(11月20日)まで、間もなく2カ月。知事が力を入れた施策や課題は、4期16年でどう変遷したのか。秋の知事選を前に、230万人が暮らす県土を耕し、実り具合を確かめる。(宮城県政取材班)

加工機が立ち並ぶ明治合成の工場内。現在は自動車向けの製造が大半を占めている=大崎市古川

 工場内に駆動音が響く。成形された部品を従業員が丹念にチェックする。

 プラスチック部品製造の明治合成(大崎市)は創業50年を越え、約100人が働く。2012年に発足したトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)を含め、ここ5年は自動車関連企業への出荷が生産の約8割を占める。主に3次下請けとして、ドアの内側やメーターの部品を継続的に供給する。

 業績は一進一退だが、年々深刻化するのが人材難だ。急速な人口減少にあらがうのは容易ではない。

 片瀬弥生社長は「毎年5人くらい新卒を採りたいが、そこまで応募がない。高齢の社員に定年後も活躍してもらわないと回らない」と明かす。

 村井知事が05年の初当選時から掲げる「富県戦略」。自動車や電子機械を中心に企業誘致で第2次産業の比重を高め、雇用の創出と県民所得の底上げを目指してきた。

 県の独自課税「みやぎ発展税」を財源とした08~20年度の産業振興費で、約8割に当たる293億6100万円が企業立地奨励金に投じられた。

 今年4月までに県内に191社が立地し、2万948人の雇用が生まれたが、内実を見ると、地元企業が1、2次下請けに食い込み、業容を拡大した例は少ない。東海や関西から進出した大手工場に、ただでさえ限られた人材が流れる構図も固定化しつつある。

 地元企業にとって、取引する進出企業が多くの場合、「出先」にすぎない実態も悩みの種だ。

 「完成車工場の生産調整など、大事な情報が来るのはいつも直前」(経営者)。愚痴で終わればいいが、急な計画変更で人件費の余計な負担を余儀なくされる例も多々ある。

 明治合成の片瀬社長は「対等にやりとりできる本社機能や開発拠点が地元にもっと増えれば、製造業全体の生産性や魅力の向上につながり、人材採用にもプラスになる」と指摘する。

 ものづくりに携わる人材の育成も課題の一つ。地元企業が注視するのは、定員割れが続く県高等技術専門校の今後だ。

 県は仙台、石巻、大崎、白石、気仙沼各市にある5校を、28年度をめどに仙台の1校に集約する基本計画を今年3月に示した。普通課程は現行の計14科300人を、11科165人に再編する。

 5校の入学者の充足率はここ10年、減少傾向をたどり、20年度は50%まで下落した。気仙沼にはサテライト校(1科)を置く構想だが、従来の専門校がなくなれば、人材の仙台一極集中や県外流出を助長する懸念も否定できない。

 県内の製造業者らでつくるみやぎ工業会の畑中得実理事長(キョーユー社長)は、高技専改革の必要性は認めつつ「地域のものづくりの担い手を育てることに主眼を置き、県内各地の企業と関わりながら実戦的な研修ができるような運営体制にしてほしい」と注文する。

2次産業強化は頭打ち

 村井知事が2005年の初当選時から推し進める「富県戦略」。第3次産業の偏重を改め、企業誘致を柱に第2次産業のウエートを高めてきたが、4期目と重なる近年は各指標に頭打ち感がある。金看板だった「名目県内総生産10兆円」は人口減少の進展を踏まえ、21~30年度の総合計画「新・宮城の将来ビジョン」に盛り込まれなかった。

 06~19年度の県内総生産と経済成長率(いずれも名目、19年度は速報値)の推移はグラフ上の通り。19年度の県内総生産は9兆4334億円。06年度比9・8%増で、同期間の国内総生産の増加率(4・2%)を上回った。19年度の1人当たり県民所得は294万円で、06年度より11・0%増加した。

 08年のリーマン・ショックで09、10年度の県内総生産は8兆円を割ったが、10年の東京エレクトロン宮城(大和町)、12年のトヨタ自動車東日本(大衡村)の誕生もあって急回復。15年度には9兆円を突破した。

 以降は伸びが鈍化し、19年度は8年ぶりに減少に転じた。第2次産業の生産額も17年度以降、3年連続で前年割れ。建設業の生産額減少と連動しており、震災復興需要の収束が影響したとみられる。

 19年度は、経済成長率が8年ぶりのマイナスに。県民所得も6兆7817億円と、17年度の6兆8205億円をピークに2年連続で減少した。

 製造業に特化したデータでも傾向は似通う。東北経済産業局によると、県内の工業統計の推移はグラフ下の通り。19年の製造品出荷額は前年比3・0%減の4兆5256億円。20年の従業員数も11万6359人で前年を2・0%下回った。

 県内の工場立地件数(1000平方メートル以上)も16年の48件をピークに減少基調で、19年は27件。新型コロナウイルスの感染拡大による先行きの不透明感から、設備投資を見送る動きも重なり、20年は19件に落ち込んだ。

 「県内総生産10兆円」の断念を巡り、村井知事は昨年、「現実的な対応にした」と説明した。人口減少が続く局面での富県戦略は、さらなる見直しを迫られる可能性がある。

 県内経済に詳しい田口庸友七十七リサーチ&コンサルティング首席エコノミストは、大手工場を誘致して10年の間に部品の地元調達率が高まらなかった点に言及。「目先のインパクトに偏り、地域に恩恵が十分及んでいない。モノが売れなくなる時代、製造業の強化に依存した『富県』には限界がある」と指摘する。

 今後は宮城の強みを見詰め直し、需要の動向を見極めたビジネスが重要になると強調。「製造業も含め、新たなアイデアが生まれるような他社や他業種との連携を積み上げるべきだ。行政は人材など足りないリソースの橋渡しで力を発揮できる」と提言する。

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