県と業界、振興策巡り溝(2)観光<耕論・宮城知事選>

 村井嘉浩宮城県知事の任期満了(11月20日)まで、間もなく2カ月。知事が力を入れた施策や課題は、4期16年でどう変遷したのか。秋の知事選を前に、230万人が暮らす県土を耕し、実り具合を確かめる。(宮城県政取材班)

南三陸ホテル観洋が、震災の年に始めた語り部バス。コロナ下でも地道に続ける

 未知の感染症は、東日本大震災の被災地で踏ん張る観光業を容赦なく襲った。

 2011年から「語り部バス」を走らせ、観光復興の中核を担う南三陸ホテル観洋(宮城県南三陸町)。新型コロナウイルスの緊急事態宣言が全国に出された20年4月、宿泊客は19年の約1割にまで激減した。

 今月になっても、19年の3割前後から上向かない。宣言が県に再発令され、修学旅行も数千人がキャンセルに。「先が見えない。収束後も元の水準には当分戻らないと思う」。観洋の阿部隆二郎副社長は嘆く。

 宮城の観光は、震災前の水準回復が「至上命令」(県幹部)だった。県は「復興支援」を錦の御旗に、人気アイドルやアニメを活用した大型観光プロモーションを繰り返した。

 県の観光統計(グラフ)によると、11年に前年比3割減の4316万人まで落ち込んだ県内の観光客入り込み数は、17年に震災前まで回復。19年は過去最高の6796万人に達し、沿岸部の石巻、気仙沼両圏域の合計も震災前年のレベルまで持ち直した。

 村井嘉浩知事が4期目の当選時に掲げた「20年に7000万人」の目標達成が眼前に迫ったが、コロナ禍で20年は3945万人で震災の年をも割り込み、県の努力は水泡に帰した。

 阿部氏は首をかしげる。「南三陸町内の宿泊客数は震災翌年以降、右肩下がり。回復が進んでいるという実感はなかった」

 観光関係者の間にはコロナ禍の前から、誘客に偏り、地域での滞在や消費を促せていない県の施策を疑問視する声がささやかれ、村井知事の独自課税第3弾「宿泊税」の導入を巡る議論で不満が表面化した。

 県は「震災10年」以降の観光施策への活用を見込んだが、業界は一斉に反発。沿岸部の旅館経営者は「復興の応援で来てくれる人から、多く取るなんてあり得ない」と拒絶。初期の感染拡大もあり、知事は初の議案撤回を余儀なくされた。

 新型コロナを踏まえた「域内観光」を促す施策が、東北の他県より遅れたとの指摘も少なくない。日本旅館協会宮城県支部長も務める阿部氏は「県は現場との意思疎通を一層図る必要がある」と訴える。

 空回り気味の県をよそに、震災の被災地では未来への模索が一歩ずつ始まる。

 気仙沼市の気仙沼観光コンベンション協会は今年から「SDGsアドベンチャーツーリズム」と銘打った取り組みを進める。地元の自然環境や食を生かし、アウトドアのレジャーと地域課題の解決が融合した観光体験を旅行者に提案する。

 追い求めるのは「誘客が減っても、持続可能な観光地」。海岸清掃を取り入れた旅行企画などの商品づくりにも乗り出し、震災伝承と組み合わせて発展させる考えだ。

 協会の鈴木淳平副会長は「ゼロからの再生を目指してきた被災地こそ、コロナ収束後に選ばれる付加価値を観光に見いだせる。理念をできるだけ具体化させたい」と力を込める。

収束後、見えぬ誘客先

 村井嘉浩宮城県知事の4期目、積極的なキャンペーンを展開してきた県の観光戦略は新型コロナウイルス禍に直面し、岐路に立たされた。県は2022年度以降の計画づくりを官民で進めるが、従来の誘客促進に替わる新たな針路を打ち出せていない。

 新型コロナが表面化する以前、県は主に首都圏からの誘客増を狙い、有名人や人気キャラクターを活用した大型観光プロモーションを繰り返した。

 18年度はアイドルグループ「Hey!Say!JUMP」とタイアップした初の通年キャンペーンを実施。「西部警察」(17年度冬)や「サザエさん」(19年度上期)、「ポケモン」(19年度下期以降)ともタッグを組んだ。

 県と観光庁の統計によると、19年は観光客入り込み数(6796万人)、宿泊観光客数(989万人泊)、外国人宿泊客数(53万人泊)のいずれも過去最高を記録(グラフ上)。16年に民営化した仙台空港で新規路線の就航が相次ぎ、誘客増につながった。

 ところがコロナ禍で暗転し、20年の宿泊観光客は587万人泊、うち外国人は12万人泊まで急減した。感染の広がる大都市圏からの誘客が望めなくなり、県はひとまず県内、東北での宿泊を促す支援策を打つ方針でしのいだ。

 感染拡大が収束した後の観光振興は、宿泊税の議論を機に発足した官民組織で話し合われているが、20年11月に策定した「みやぎ観光回復戦略」は、基本理念に盛り込んだ「デジタル変革」の内容が曖昧なまま。海外からの誘客再開を21年とした前提も崩れつつある。

 22~24年度に向けた議論でも「異業種と連携すべきだ」「教育旅行の充実を」といった意見が出るものの総花的。「中身は毎回同じ」との声も漏れ、抜本的な見直しの機運は乏しい。

 コロナ前からの課題も残る。県の観光消費額(グラフ下)を見ると、19年は3989億円で過去最高だったが、観光客数の伸びと比べて鈍く、外国人分を除くと18年比で減少。宿泊・飲食サービス業の18年度の県内生産額も2308億円で、10年前と横ばいだ。

 石巻専修大の庄子真岐教授(観光学)は、人口減少がさらに進む今後の観光業の在り方として「適疎」を提唱する。数は少なくても、地域で大事にする価値観に賛同する人に何度も足を運んでもらい、客単価を高めるべきだと考える。

 「客を一人でも多くという発想は、コロナ禍でますます地域に快く思われなくなった」と庄子氏。「『中国人』『20代女性』とターゲットを決めず、『農家を守る』『海と生きる』といった価値観で人を呼び込めれば有事にも強い。地域で知恵を絞る取り組みこそ県は後押ししてほしい」と提案する。

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