創造的復興、実現道半ば(3)農業<耕論・宮城知事選>

 村井嘉浩宮城県知事の任期満了(11月20日)まで、約2カ月。知事が力を入れた施策や課題は、4期16年でどう変遷したのか。秋の知事選を前に、230万人が暮らす県土を耕し、実り具合を確かめる。
(宮城県政取材班)

コンバインで稲を刈る森組合長。震災から再生した農地で地域と農業の共栄を目指す=20日、岩沼市寺島

 東日本大震災から10年半。宮城県沿岸部の田園地帯で「創造的復興」が形になりつつある。

 海からわずか約700メートルの距離にある水田に黄金色の稲穂が実る。岩沼市の農事組合法人「玉浦南部生産組合」は20日、主食用米「ひとめぼれ」などの刈り取りを始めた。

 現在のメンバーは若手からベテランまで約20人。2020年の作付面積は水稲約100ヘクタール、大豆約20ヘクタールまで広げ、ハウスではキュウリを栽培。売り上げは目標をほぼクリアし、黒字を確保した。

 森康彦組合長(73)は「土づくりを進め、ようやく震災前の収量まで戻ってきた」と手応えを語る。

 地元集落では震災前、約100戸が田畑を耕していた。津波で家や農業機械が流失し、多くの住民が移転する中、森組合長ら15人が「地域を守るのはわれわれしかいない」と奮起。13年2月に組合を設立した。

 初年の作付けは水稲10ヘクタールにとどまったが、農機やハウスを市から借り受けたほか、復興交付金による農地区画整備で経営規模を拡大。衛星利用測位システム(GPS)付きの田植え機などの新技術も取り入れ、作業効率化や低コスト化に取り組む。

 森組合長は「ベテランの知恵と若い力を融合させ、地域と共に発展する経営体を目指したい」と意気込む。

 震災で県内の農地は約10%に当たる約1万4300ヘクタールが浸水し、復旧に巨額の公費が投じられた。

 県の復旧事業の対象農地は約1万3000ヘクタール。事業費は約355億円で、今年3月末に完了。農地の集約化、大規模化を図る整備事業は約5250ヘクタール、事業費は約1140億円に達した。19年の100ヘクタール規模の農業法人数は38で、15年の約3倍に膨らんだ。

 農業人口の減少や高齢化に歯止めがかからず、創造的復興の陰で宙に浮く復旧農地も少なくない。

 小区画に復旧した地域では、当初耕作予定だった生産者が高齢などを理由に耕作しなくなった「不作付け地」があり、県も「面積の詳細は把握していないが、気仙沼、南三陸地域で相当程度存在している」(農村整備課)と認める。狭小で条件が悪く、受け取り手のないケースもあるという。

 経営の安定化や円滑な継承も課題だ。

 東北有数のイチゴ産地、山元町の「山元いちご農園」は6次産業化を軸とした総合農園を目標に定める。従業員約50人のうち地元の山元、亘理両町の住民が半数近くを占める。

 岩佐隆社長(66)は「地域の農業を支える担い手を育てることが大きな役割だ」と強調する。

 農園は11年6月、岩佐社長ら被災農家4人で再出発した。国の補助金、少額投資ファンドや金融機関から資金を調達。コンピューター制御によるイチゴ生産やイチゴワインの醸造に加え、カフェを併設し、経営はいったん軌道に乗った。

 新たな壁として立ちはだかったのが新型コロナウイルス。国内外の観光客が減り、売り上げがコロナ前と比べ約3割も落ち込んだ。

 「雇用の安定化を推進しながら定住者を増やし、地域の復興に結び付けたい」と前を向く岩佐社長。インターネット通販やワイン販売の強化など、ポストコロナを見据えた戦略を練る。

目標値の達成、不透明

 宮城県は3月、農業・農村の振興に関する「第3期みやぎ食と農の県民条例基本計画」(2021~30年度)を策定した。人口減少や新型コロナウイルスの感染拡大で主力のコメの需要が落ち込む中、水田の転用で野菜や果樹、花卉(かき)といった園芸作物の生産拡大を図る。2030年の農業産出額(グラフ)は18年比約18%増の2288億円と掲げたが、実現のハードルは高い。

 「主食用米は今後も消費の減少が見込まれる。県の生産構造を転換していくことが重要だ」。村井嘉浩知事は県議会6月定例会の一般質問で答弁し、第3期計画に基づく農業所得の向上、競争力の高い水田農業の実現に意欲をにじませた。

 第3期計画は30年のコメの産出額を18年比約2%減の798億円と見込む。事前契約での販路確保など、需要に応じた生産を図る主食用米の生産量を同比3万1260トン(約9%)減らす一方、飼料用米、加工用米などの非主食用米の生産量を1万838トン(約40%)増やす。

 麦類や大豆、ジャガイモやタマネギ、キャベツといった園芸作物への転換を促し、園芸の算出額はほぼ倍増の620億円を目指す。県農政部の担当者は「高い目標だが、県の強い決意の表れ」と説明する。イチゴやトマト、パプリカといった施設園芸は高度な環境制御技術で収量アップにつなげたい考えだ。

 各圏域は風土に適した「地域戦略品目」の生産に取り組む。

 栗原市では16年、栗っこ農協(現新みやぎ農協)がズッキーニ部会を設立し、東北有数の産地となった。現在は主に中高年の約70人が従事。20年は県内外のスーパーなどに約100トンを出荷し、販売額は約3800万円に上る。

 佐藤和好部会長(67)は「みずみずしい味わいが特徴で、市場の引き合いが増えている。販売額1億円を目標に、特産品として浸透させたい」と思い描く。

 第3期計画で、畜産の産出額は肉用牛や乳用牛を軸に18年比約11%増の842億円と設定した。畜舎の整備や公共牧場の利活用を進め、搾乳ロボットや自動搬送搾乳機で省力化。飼料用稲や牧草を生かした低コスト生産も推進する。

 県内の農業産出額は00年、2202億円に達したが、村井知事が初当選した05年は1997億円、東日本大震災が起きた11年は1641億円まで低下。その後は回復傾向にある。

 村井知事は4選を果たした17年の前回知事選で「21年度までに2080億円にする」と公約した。ただ、コロナの影響などで数値目標を達成できるかどうか不透明だ。

栗原産のズッキーニを販売する佐藤部会長(左端)ら=5月、宮城県庁
河北新報のメルマガ登録はこちら

企画特集

先頭に戻る