社説(9/30):自民党新総裁に岸田氏/対話重視の姿勢 貫けるか

 安倍晋三首相の突然の退陣表明を受けた自民党総裁選で、当時の菅義偉官房長官を前に一敗地にまみれたのはわずか1年前。誰もが総裁レースから後退したと思ったはずだ。右手を上げて拍手に応える姿をこんなに早く目にするとは、果たしてどれだけの人が予測できただろう。

 新総裁にきのう、岸田文雄前政調会長が選出された。事実上、次の首相の座に就くことになる。

 1回目の投票で河野太郎規制改革担当相を僅差で抑えてトップに立ち、議員票の比重が大きい決選投票では大差をつけた。

 岸田氏は国民の声を聞き、政策に反映させることを公約に掲げた。国民と正面から向き合い、説明を尽くす。対話重視の姿勢を貫けるかどうかが政権の命運を握るだろう。政策決定過程の透明性の確保も求められる。

 喫緊の課題は、やはり新型コロナウイルス対策となる。ワクチン接種の効果などもあり、19都道府県に出されていた緊急事態宣言はきょうで解除される。今後は社会経済活動を取り戻すための景気刺激策に軸足が移る。

 岸田氏は数十兆円規模の経済対策に言及している。度重なる緊急事態宣言の発令で飲食業や観光業など多くの業界は疲弊している。事業者の救済に加え、生活困窮者への支援は待ったなしだ。感染の「第6波」へ備えた医療体制の整備も急がれる。

 外交・安全保障やエネルギー政策をはじめ国政の課題は山積している。主要政策は基本的に「安倍・菅政権」を踏襲するものとみられる。そこに、独自色をいかに出していくのか。

 岸田、河野両氏に加え、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行が立候補した選挙戦では政策論争が活発だった。ただ、個別の政策に偏りがちで、国の将来像に対するビジョンは示されなかった。決選投票が濃厚となった最終盤は派閥の力学が働き、権力闘争に終始した。

 今回の総裁選は、安倍政権から続く「政治とカネ」や権力の私物化、国会軽視、官僚の忖度(そんたく)といった「負の遺産」をどう総括するかも問われるべきだった。それらをリセットしないと、真の信頼回復は望めない。だが、安倍政権や菅政権で要職を務めた4氏はほとんど触れなかった。

 安倍氏や麻生太郎副総理兼財務相らは引き続き、党内で影響力を保つことになる。権力構造が温存されたところに、今回の総裁選の限界を見ることもできよう。

 岸田氏が直面する最初の難関は、目前に迫った衆院選だ。「選挙の顔」として期待が高く、党員票で他を圧倒した河野氏が選ばれなかったことを、党員や国民はどう捉えるのか。選挙の結果いかんによっては、就任早々、党内の求心力を失いかねないことを覚悟しなければならない。

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