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【特集】小さな書店放浪記 vol.1 漫画家いがらしみきおさん インタビュー

「本は知識の窓口」

いがらしみきおさん

 私が20歳ぐらいのときに地元の中新田町(現・加美町)にできた「かみ書房」には、ほぼ毎日行っていました。文房具店の店内に週刊誌を置いているような店はありましたが、書店はなかった。週刊誌や月刊誌、音楽関係の本を読んでさまざまな情報を得ていました。本は「知らないことを知る窓口」です。

書店巡り楽しみ

 17歳から3年ぐらい東京にいましたが、本の印象はあまりないですね。書店通いは中新田に帰ってから。かみ書房に無い本は仙台に探しに行きました。仙台駅前やアーケード街の書店とレコード店を回るのが楽しみで、買えるだけ買って両脇に荷物を抱えて帰宅していました。

 仕事場を仙台に移してからも仙台駅前の書店に行くのが楽しみでした。八重洲書房(1993年閉店)にはよく行きました。お店のオーナーの方と仲良くなって、その妹さんが「ぼのぼの」のファンで、親しくさせていただきました。

 SF小説が好き。「ぼのぼの」より前の4コマ漫画ではSFっぽいのを描いたこともあります。影響を受けた作家は筒井康隆さん、「華氏451度」のレイ・ブラッドベリ、スタニスワフ・レム。レムの「惑星ソラリス」の世界観に圧倒された記憶があります。

 「こんな作家、海外にいない」というのが筒井さん。夢中になって読みました。私の漫画も大いに影響を受けています。

哲学 科学が中心

 最近読むのは「沈黙の世界」(みすず書房)「数学に魅せられて、科学を見失う」(同)など哲学や科学の本が中心になっています。

 今も土曜日は本屋巡りをしています。市地下鉄北四番丁駅で降り、二日町、定禅寺通から東一番丁通を歩き、藤崎の角を左に折れて仙台駅に向かいます。その間の本屋に入り、自分が好きな本が売れて無くなると、「読んでるのは俺だけではない」と実感します。

 仙台駅前やアーケード街には地元の本屋がたくさんありましたが、今はめっきり少なくなりました。さみしいですね。

 1955年、中新田町(現加美町)出身。仙台市在住。79年デビュー。「ネ暗トピア」「ぼのぼの」で人気漫画家に。「羊の木」で文化庁メディア芸術祭漫画部門優秀賞。

「ぼのぼの」35年 特別展を開催中/仙台文学館

 いがらしさんの「ぼのぼの」連載35周年を記念して、特別展「ぼのぼのたちの杜」が青葉区の仙台文学館で開かれている。11月28日(日)まで。

 会場には原稿やイラストなど約100点を展示。いがらしさんが選んだ名シーンなどを紹介し、作品の魅力に迫っている。訪れた人たちは、いがらしさんの独特の世界観に見入っていた。

 ぼのぼのは、主人公の青いラッコの男の子が森の仲間たちとの緩い暮らしを描いている。

仙台市青葉区北根2-7-1
TEL022-271-3020
営/9:00~17:00
休/月曜(10月11日は開館)、祝日の翌日、第4木曜
観覧料/一般810円、高校生460円、小中学生230円

編集後記/人間の存在 問い続ける

 心をえぐられた漫画がある。巻頭特集で登場してもらった、いがらしみきおさんの「かむろば村へ」(2007~08年連載)だ。「ぼのぼの」「さばおり劇場」など、独自の世界観に包まれた短編ギャグ漫画で読者を刺激し続けてきたいがらしさんが、人間の欲を描いた物語。以降、いがらしさんは「Ⅰ【アイ】」など、人間を探求する物語を発表する。「Ⅰ」で描いた神や人間の存在に対する問いは、将来も色あせることはないだろう。

 作風の変化について尋ねると、「自分の中に地図がある。行った場所もあれば、それ以上先は進めないことが分かっている場所もある。広い荒野があるのなら、行ってみたいと思った」。WEBで連載中の短編漫画「人間一生図巻」では「Ⅰ」で否定するかのようにも見えた人間の存在を、丁寧に描く。いがらしさんが荒野で紡ぐ「問い」は続いている。(ん)

(河北ウイークリーせんだい 2021年10月7日号掲載)

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