社説(10/9):岸田首相が所信表明/「成長」への具体策見えぬ

 目前に迫った衆院選を見据え、聞こえのいいスローガンを並べた感が否めない。

 経済再生の起点となる「成長」をどう実現するのか。避けて通れないはずの負担増を巡り、具体的な説明はなかった。「国民の納得感」を大切にするとしてきた基本姿勢にも、スタートから疑問符が付いたと言わざるを得ない。

 岸田文雄首相がきのう、就任後初の所信表明演説を行った。新自由主義的な政策を転換するとして注目された経済政策には「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現を掲げた。

 「デフレからの脱却」を最大の目標に金融緩和と財政出動、成長戦略を推進するとしたアベノミクスを大枠で継承しつつ、格差拡大などの弊害に対応するため「成長戦略」と並んで「分配戦略」を進めると表明した。

 大企業による「下請けいじめ」の監視強化や賃上げを実施した企業への税制支援、介護士、保育士らの所得向上、子育て世代への教育費・住居費支援など、列挙した政策は分配機能のみならず、社会的な公正、公平の面からも妥当な方向と言っていい。

 大企業や富裕層が潤えば、中小企業や低所得層にも恩恵が波及する「トリクルダウン」など実際にはほぼ起きなかった。アベノミクスの失敗を反省し、政策を修正しようとしていると理解できる。

 問題はこうした「分配」の原資となる「成長」をどう実現するかだ。「1億総活躍」「働き方改革」などを掲げたアベノミクスでは、働く人の給与は2012年からの8年間で0・97%しか増えず、年2%の物価上昇目標さえ達成されなかった。

 一方、政府債務は同じ8年間で992兆円から1216兆円に増大した。コロナ禍により、財政悪化はさらに進んでいる。成長戦略に掲げた「科学技術立国」や「デジタル田園都市国家構想」などに振り向ける財源をどう捻出するのか、具体的な見通しは語らなかった。

 演説に当たり、原案にあった「所得税や相続税の累進構造を高める」との税制改正方針は直前で撤回された。

 総裁選では株式配当など金融所得への課税強化を政策集に明記し、富裕層に負担増を求める姿勢を明らかにしていただけに、貧富の格差是正に向けた首相の本気度は後退している印象さえ受ける。

 新型コロナへの対応では、打撃を受ける事業者に対し、地域や業種を限定しない形での給付金支給を打ち出した。農業や水産業にも甚大な影響が及んでいることを考慮し、積極的に進めるべきだろう。

 演説冒頭で東日本大震災の際に発揮された日本社会の絆については言及したが、復興支援に関して聞くべき内容はなかった。被災地は震災と原発事故を美談にすることなど望んでいない。課題を直視した対応を求めたい。

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