社説(10/16):財務事務次官の寄稿/財政責任 軽視は許されぬ

 財務省の矢野康治事務次官が、与野党の政策論争を「ばらまき合戦」と批判した月刊誌への寄稿について、経済界などから支持する声が上がっている。

 「大変失礼な言い方」(高市早苗・自民党政調会長)などと反発が広がり、一時は更迭論まで出たという与党内の反応とは、極めて対照的だ。

 与野党が大規模な経済対策を公約に掲げる中、このタイミングで最も言われたくないことを言われたせいかもしれない。

 国の借金がこれ以上膨れあがり、次世代に重い負担を残すことに不安を抱いている国民は少なくない。

 景気の良いスローガンを掲げながら、財源について語ろうとしない各党の姿勢にも、有権者は納得していないはずだ。財政の現実を見据えた議論を避けてはならない。

 文芸春秋11月号に掲載された矢野氏の寄稿は「ばらまき合戦はこれまで往々にして選挙のたびに繰り広げられてきた」と指摘。その上で深刻な財政赤字にもかかわらず、日本は他の先進国と異なり、コロナ対策の財源確保のために増税などの措置を講じていないことを紹介している。

 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は12日の記者会見で「書いてあることは事実だ。100%賛成する」と評価。現職の事務方トップが与野党の政策論争を公然と批判するのは確かに異例だが、与党の一部に問題視する声があることには疑問を呈した。

 寄稿の内容は、これまで財務省が主張してきたことと全く変わらない。矢野氏は事前に麻生太郎財務相(当時)の了解も得ていたとされる。

 矢野氏の寄稿が大きく波紋を広げた背景には、財政問題に対する自民党内での考え方の違いがありそうだ。

 そもそも麻生氏は、高市氏が経済対策を優先するため、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を「時限的に凍結する」と総裁選で主張したことに対し、強い不満を示していた。

 リーマンショック後の2009年には、75兆円の経済対策を打ち出すに当たり、首相(当時)として「大胆な財政出動を行うからには、財政責任を明確にしなければならない。子や孫に負担を先送りしてはならない」と演説した。現在に通じる正論と言っていいだろう。

 20年度に3度の補正予算を組んで積み上げた60兆円規模のコロナ対策費は、いまだにその効果の検証さえ行われていない。これでは効率的な施策の展開は期待しにくい。緩みきった財政規律は、国際社会の目にも奇異に映ることだろう。

 矢野氏は寄稿の中で「国民は本当にばらまきを求めているのか。日本人はそんなに愚かではない」と強調している。求められるのは経済再生への希望と同時に、将来世代への責任を語る政治である。

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