山間の農家、団結し抵抗<東北・拡大する野生動物被害>(3)

康夫さんらが仕掛けた箱わな。イノシシが減ったせいか、今年はまき餌狙いのクマが頻繁に現れた=7月12日、仙台市太白区秋保町

「カツン、カツン」夜に響く

 体に付いた寄生虫を落とすため、イノシシが泥を浴びる場所を「ぬた場」と呼ぶ。仙台市中心部から西へ車で約50分。宮城県川崎町との市町境近くにある太白区秋保町の休耕田に7月上旬、大きなぬた場があった。脇を通る市道のアスファルト上には、泥の付いた足跡が点々と続いていた。

 「田んぼで虫を拭って歩いて行ったようだ。この辺はぬた場だらけで、田んぼはまるでミステリーサークルのような状態さ」。近くの農家佐藤康夫さん(67)がつぶやいた。

 イノシシが道路を歩くのは、この辺りの日常だ。農家の佐藤宏昭さん(69)も目撃者の一人。今春も夜に「カツン、カツン」という音が聞こえたので戸外を照らしたところ、大きなイノシシが走っていた。康夫さんらの農地はひどく荒らされてきた。

 泣き寝入りをしていては生活が立ち行かなくなる。康夫さんらは住民グループを組織し、地区の農地の周り計約7・4キロに侵入防止用のスチールフェンスを設置。箱わなも2017年以降、計8カ所に仕掛け、駆除に乗り出した。

 20年の駆除頭数は14頭、19年は30頭。スタート時点からの総数は79頭に上る。今も年間30カ所はフェンスに穴を開けられたり、自家消費用の畑の作物が全滅したりといった被害は出ているものの、駆除を続けてきたことで頭数が減ってきたと感じるという。

 「ここが好きで、ここで生きてきた。秋保を守るため続けていくしかない」。箱わなのまき餌の米ぬかを狙うクマに邪魔されることもあるが、康夫さんは諦めるつもりはない。

原発事故が影響

 秋保町だけでなく、山あいでの農業は野生動物との闘いだ。岩沼市中心部から西へ車で約20分。同市志賀地区でも農家がイノシシ被害と向き合っている。

 志賀地区にイノシシが出るようになったのは東日本大震災前後。より山側に近い地域から荒らされ、半作に陥った水田もあった。何とか残った稲も、獣臭で売り物になりにくくなってしまった。「15年ほど前までは人ごとだったが、東京電力福島第1原発事故の影響で福島県内でイノシシが増え、北上してきた」。志賀地区の農家南城喜与樹(きよじゅ)さん(63)はそうみる。

 地区の農家はすぐ対策を講じた。計65人で農事組合法人を結成。計60ヘクタールのうち山側の22ヘクタールを電気柵でぐるりと囲んだ。下草が伸びて柵に触れると放電して効力が薄れる難点があるが、見回り担当者を置いて3日に1度は地区を巡っており、管理に余念がない。

 「山に囲まれていても人と金があれば農地は守れる。でも、ほとんどの農家はそういう状況にない」と南城さん。今は山あいの農家が防波堤となって、市街地への野生動物の攻勢を押しとどめている格好だ。人口減少や若年層の都市部流出が続けば、現状維持は一層難しいものになる。

餌を狙って箱ワナの周囲をうろつくクマ
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