実りの山廃れ、里へ迫る<東北・拡大する野生動物被害>(1)

アヤメ園を駆け回るうり坊=6月26日、亘理町 

山間のクリ畑がクマのターゲットに

 赤茶けたおりの中で、体長1メートルほどのクマが寝そべっていた。9月21日、北秋田市阿仁地区のクリ畑。クリ拾いに訪れた所有者の農業柴田雅文さん(70)が、猟友会が仕掛けた箱わなに引っ掛かっているのを見つけた。クマはその日のうちに処分された。

 川沿いにあるクリ畑は10日ほど前からクマのターゲットになっていた。川向こうの山から浅瀬を渡って来て木に登り、枝ごと折って実を食べる。「今年は特にひどい。足の踏み場もないほど、ふんが落ちている。駆除された1頭は氷山の一角だろう」。柴田さんが困り顔で教えてくれた。

 クリの木は1960年代以降に植えられた。山がちの阿仁地区では稲作一本で生活するのは難しい。他の収入源を模索する秋田県の試行事業として始まり、ピーク時には一帯の計約300ヘクタールがクリ畑に変わった。わせからおくてまで20品種前後をそろえ、長期間の収穫を可能としていた。

 思い描いた夢は20年ほどたった頃から雲行きが怪しくなった。全国同様、阿仁地区も農家の高齢化と後継者不足が進展。クリ畑の3分の2以上が放置されるようになってしまった。将来の建材需要を見越した広葉樹の伐採とスギの植林もあだとなり、ドングリが減った山からクマが下り、実を付け続けるクリの木に集まるようになった。

 阿仁地区は「マタギの里」として知られるが、往時に100人以上いたマタギも今や12人。かつてのような捕獲作業は難しく、食害ばかりか、クマに遭遇した住民が負傷する事態に陥っている。

車が行き交う国道沿いにもイノシシ出没

 獣害は山深い地域に限った話ではない。ひっきりなしに車が行き交う宮城県亘理町の国道6号沿い。JR常磐線逢隈駅から西へわずか500メートルほどのアヤメ園にもイノシシが頻繁に出没し、所有者を悩ませる。

 「ほら、これがイノシシのふん。やはり来ているようだ」。アヤメ園を管理するリンゴ農家高野誠一さん(76)が指さす先に、大きな黒い塊があった。

 地面にはイノシシが掘った穴が無数に残る。アヤメの根の近くを掘り起こし、ミミズを食べる。春先には何頭ものイノシシの子「うり坊」が園内を駆け回る。「地面がぼこぼこになるので乗用型の草刈り機の刃が引っ掛かり、壊れてしまう」と高野さん。1回数万円に上る修理代を幾度も支払ってきた。

 丹精したリンゴ園はまだ無事だが、高野さん方より山側にある仲間のリンゴ園は壊滅的で、生産断念に追い込まれた。「亘理はリンゴの町なのに、このままではどうなるか…」。高野さんは不安を募らせる。

東北で拡大する野生動物の被害

 東北で獣害が拡大している。食害だけでなく、JR線との衝突件数は2020年度、統計開始以降最も多くなった。高速道路でも交通の寸断が相次ぐ。国の試算によると国内人口は2110年に4000万台まで減るとされ、野生動物の生息域は今以上に広がって人間社会が立ち行かなくなることも想定される。各方面の実態を報告し、目指すべき社会像を模索する。
(生活文化部・桜田賢一)=5回続き

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