(96)こう(ママ)ろぎや夜は明(あけ)てある壁のすき/上田 秋成(1734~1809年)

 壁が少し崩れている。でもコオロギどん、これはお前さんの音を聞くために開けておいたのだよ。負け惜しみと言えば負け惜しみだが、開き直りと風雅の心は表裏一体なのだ。作者は『雨月物語』で有名な上田秋成。俳号も「無腸」とちょっと怖い。晩年、妻を失くし孤独だったという。でも、この句はコオロギを友に平明な明るさを作り出している。老境の諦念をそこはかとないユーモアに変えてしまう、これぞ俳句の効能。『俳調義論』より。
(浅川芳直)

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秀句の泉

 「秀句の泉」は、俳句の魅力を伝えます。執筆は俳人の永瀬十悟さん(福島県須賀川市)、浅川芳直さん(宮城県名取市)、及川真梨子さん(岩手県奥州市)の3人。古典的な名句から現代俳句まで幅広く取り上げ、句の鑑賞や季語について解説します。


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