<まちかどエッセー・津田公子>秋暮色

つだ・きみこさん 川柳作家。石巻市出身。日本大卒。元中学教諭(主に仙台市、石巻管内)。川柳宮城野社同人、県川柳連盟理事も務める。県芸術祭川柳部門文芸賞(県知事賞)を受賞。河北新報創刊100周年記念河北文学賞川柳部門佳作。句集に「風の中」。東松島市在住。

 東日本大震災後に、東松島市の海辺から山辺のこの地に移住して6年、身も心もなじんできた。

 再配達の宅配便を受け取る時間と重なり、いつも夫に同行する夕方の散歩が、私の単独行となった。10月中旬の午後5時少し前である。道のりはいつもの半分とした。帰途、神社の鳥居脇の駐車場付近で、坂道から下りてくる人がいた。家を出た時と違って日は落ち、暗くなり始めている。行き交う車のライトがくっきりしている。

 目を凝らすと、近くに職場がある顔なじみのTさんだった。あいさつを交わした。勤め帰りに近くの家の方に用事があり、それが済んで車に戻るところだという。「暗くて、危ないですよ」と、彼は車から懐中電灯を持ってきて、私に手渡してくれた。私は内心「大丈夫、まだ見えるし、何より歩き慣れた道だ」と思っていた。

 しかし彼から見ると、薄暮から闇へと入った時間の一人歩き。無灯で服も紺のジャケットを着ている。交通事故に巻き込まれやすい対象だったのだ。年齢的にも最も危ない。ダイジョウブと思うのは、こちらの思い込みにすぎないと悟る。彼の思いやりが心に染みた。

 その翌日の散歩は4時すぎのスタートにした。日中の火照りが残り、乾いた風も心地よい。角を曲がろうとすると、お隣のM子ちゃんが三輪車に乗ってくるのに出会う。おばあちゃんが後ろに付き添っている。M子ちゃんの口元にも小さなマスク。500メートル先のコンビニに、お気に入りのお菓子を買いに行くのだと言う。この春から保育園に通い始めた3歳のM子ちゃんは、言葉も行動も活発になっている。でもきょうの彼女は、私の話し掛けにはうつろである。瞳はきらきらしてご機嫌な様子。頭の中はお菓子でいっぱいなことが分かる。小さな細い足で三輪車を一生懸命こいでいる。早く早くお店へ。

 道の右手には刈り取りの終えた休息の田が連なる。落ち穂をついばむ白い鳥が1羽。空はあすの晴れを約束する茜(あかね)。道端には実をたわわに付けた柿の木が点在する。

 M子ちゃん、大きくなっても覚えているだろうか。この美しい東松島・大塩の秋の夕暮れを。
<いい日だった生きてることがこんなにも>
(川柳作家)

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まちかどエッセー

 仙台・宮城在住の執筆者が、それぞれの活動や暮らしで感じたことをつづります。


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