地域再生ビジターズ産業の創出(3)被災地ビジネス

復興グッズ「オクトパス君」作りに励む被災住民。「雇用」と「生きがい」を生み、名産のタコのPRにもなっている=3日、宮城県南三陸町

 ビジネスの手法を用いて、住民が主体となり地域の課題解決に取り組んでいく事業「コミュニティービジネス」が、東日本大震災の被災地で徐々に広がりを見せている。

 河北新報社の提言「地域再生ビジターズ産業の創出」は、交流人口の拡大につながる被災地ツーリズムに着目。被災地ツアーの企画や復興グッズの開発をコミュニティービジネスが担えれば、被災地に新たな雇用を生み出すことができる。

 さらに提言に創設を盛り込んだ「東北再生ビジターズセンター」にコミュニティービジネス支援の機能を与えることで、被災地ビジネスの可能性は大きく広がる。

 釜石市の旅館従業員だった伊藤聡さん(32)は震災後、被災地ツーリズムで地域の再生を目指すコミュニティービジネスの起業家に転身した。

 「全国から駆け付けてくれた大勢のボランティアを、がれきの処理だけで帰すのはもったいない。釜石のファンになってもらって、何度も訪れてもらえれば、中長期的な復興につながる」と、伊藤さんは確信する。

 ことし4月にツーリズムプロジェクト「三陸ひとつなぎ自然学校」を発足させた。被災地でボランティアをしながら三陸の人や自然と触れ合ってもらうツアーを企画し、これまでに首都圏などから約1000人を三陸に呼び込んだ。

 企画は昨年7月、社会起業家を養成する内閣府の研修に参加し構想を練った。コンペで認められ、国から200万円の支援を受けた。伊藤さんのほか3人がプロジェクトに参加した。

 伊藤さんは「震災がなくても少子高齢化や過疎化が進み、地域の疲弊は止まらなかった。震災が忘れられ、釜石に人が来なくなってからでは手遅れ」と語り、できる限り起業を急いだという。

 宮城県南三陸町の工房で、被災者が町特産のタコをモチーフにした文鎮「オクトパス君」の製作に励んでいる。

 英語のオクトパスと「置くとパス(試験に合格)」を掛けた縁起物は震災前からあったが、復興グッズと銘打ちデザインを一新した昨年7月からは、3万5000個を売る大ヒット商品に。売り上げは4000万円を超え、仮設住宅に暮らす被災者10人の貴重な収入源ともなっている。

 南三陸復興ダコの会会長の高橋修さん(53)は「精神的に落ち込んでいた被災者の生きがいづくりにと始めたが、全国から思わぬ反響があった。国の補助金が切れる2年以内に地場産業に発展させたい」と意気込む。

 仮設住宅にこもりがちな高齢者に復興グッズ作りを発注する事業プランも現在、構想している。

 阪神大震災(1995年)では、ゾウをかたどった被災者手作りの壁掛けタオル「まけないぞう」が復興グッズとして人気を集めた。しかし、97年の製作から2年で売り上げは減少したという。

 過去の多くの災害でも復興グッズが開発されたが、息の長い事業につなげるのは難しかった。

 オクトパス君の製作を呼び掛けた町入谷公民館長の阿部忠義さん(53)は「事業2年目が勝負。風は温度の変化で起きるもの。われわれが情熱を失わなければ、新たな風は起こせるはず」と自信をみせる。

 東北大大学院の大滝精一経済学研究科長(経営政策)は「少子高齢化や過疎化など震災前から抱えていた地域課題の解決に直結するコミュニティービジネスを展開し、持続的な発展を目指すべきだ。ぜひ、ほかの被災地にも応用できる新たなビジネスモデルを構築してほしい」と激励する。

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