地域再生ビジターズ産業の創出(6)自然と生きる

地元漁師の案内で断崖絶壁を巡るツアー。大津波の脅威を伝えるジオサイトでもある=8月28日、岩手県田野畑村

 東日本大震災で一度は挫折しかけたプロジェクトが、再び動きだした。岩手県洋野町から陸前高田市まで南北約180キロに及ぶ長大な三陸海岸を、丸ごと地球活動の遺産公園にする「いわて三陸ジオパーク」構想だ。

 国内最古級の岩盤が露出する三陸海岸では、5億年に及ぶ地層や地殻変動を連続的に観察できる。研究者の間では、地質学的に貴重な地域として以前から知られていた。

 その価値に着目した岩手県と地元13市町村は、2011年2月に「いわて三陸ジオパーク推進協議会」を設立。本格的な検討に着手した1カ月後、震災が襲った。

 協議会の活動は休止に追い込まれたが、県は復興計画に「大地震・大津波という地球活動の痕跡を生かしたジオパークの推進」を盛り込んだ。傷ついた海岸に「震災の記憶を未来に語り継ぐ」という新たな価値を見いだし構想はよみがえった。

 地球活動の痕跡を知る手掛かりは、単なる地質や地層の観察だけにとどまらない。日本ジオパーク委員会委員で早大の高木秀雄教授(地質学)は「自然と向き合って生きる人々の営みや活動もジオパークの大事な構成要素だ」と指摘する。

 こうした取り組みの実例を求め、岩手県田野畑村を訪ねた。

 高さ180メートルもの絶壁が約8キロにわたって続く景勝地・北山崎。断崖直下を「サッパ船」と呼ばれる磯舟が疾走する。巧みなかじさばきで狭い岩穴をくぐり抜けると、乗り込んでいた観光客から歓声が上がった。

 地元の現役漁師が船頭兼ガイドを務め、北山崎の景観や動植物、地元に伝わる漁法などを紹介するツアー「サッパ船アドベンチャーズ」が近年、注目を集める。震災前には年間約5000人が訪れ、村の新たな観光資源に育っていた。

 企画するNPO法人「体験村・たのはたネットワーク」事務局長の楠田拓郎さん(31)は「全国観光資源評価で最高ランクの特A級に格付けされた景観の迫力を、普段は体験できない海側から楽しんでほしい」と話す。

 震災では高さ20~30メートルの津波に襲われサッパ船も大半が流失したが、中古船を調達し、ツアーを昨年7月に再開。横倒しになった防波堤や倒壊した番屋群跡を巡る。船頭の一人で養殖業の三浦善人さん(49)は、漁村の暮らしを解説する傍ら「多くの人に津波の脅威を伝えたい」と自らの震災体験も語る。

 いわて三陸ジオパーク推進協議会は13年春、日本ジオパーク委員会への申請に踏み切る予定だ。八戸市、気仙沼市も県境を超えて構想への参加に前向きという。

 日本ジオパーク委員会は「過去の津波の痕跡も含め、これだけ震災遺構が集積する地域は世界でも珍しい。認定されれば、防災教育の観点からも重要なジオパークになる」と高く評価している。

 ジオパークと類似する取り組みは、官民の別なく相次いでいる。

 環境省は、陸中海岸国立公園を周辺の自然公園とともに再編成した「三陸復興国立公園」を設立する。範囲は青森県の種差海岸から宮城県の金華山周辺まで。大震災とその後の復興を伝える国立公園を目指すという。

 被災4県でそれぞれ地域おこしに取り組む市民グループが、青森、岩手、宮城、福島の沿岸被災地を巡礼する「東北のお遍路」構想の検討を始めた。「人が往来できる土地に戻ってほしい」との願いを込め、福島第1原発事故の警戒区域内にも、あえて巡礼路を設定する。

 三陸海岸は、震災を体験した人々によって自然への畏敬の念と命の重さを学ぶフィールドへと変貌を遂げつつある。

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