地域に密着した再生可能エネルギー戦略(1)フロントランナー

再生可能エネルギー先進地の岩手県葛巻町で、小型風力、太陽光を利用して電力の自給自足を実現したゼロエネルギー住宅=10月9日、くずまき高原牧場

 風をつかんだ町が「3・11」後の追い風をつかみあぐねている。

 「企業が風車を建てる場所はいくらでも貸します。でも町が自前で建てる計画はありません」

 1999年の風力発電所建設を皮切りに再生可能エネルギーの普及に取り組んできた岩手県葛巻町だが、町農林環境エネルギー課の鈴口美知代さん(49)は「予算がなくて…」と口ごもる。

 町内には風力のほか太陽光や木質バイオマス、畜ふんバイオガスなどの最先端発電施設が点在する。さながら再生可能エネルギーのショールームだ。電力自給率は166%を達成した。

 「葛巻詣で」と称して東日本大震災後、人口8700の小さな町へ年間4000人が視察に訪れるようになった。

 10月上旬に訪れた一橋大大学院経済学研究科の山下英俊准教授(資源経済学)もその一人。発電事業者から電力会社が一定価格で電気を買い取ることを義務付け、再生可能エネルギーの普及を図る固定価格買い取り制度(FIT)が7月に始まったことから「新規事業がやりやすくなったのではないか」と鈴口さんに尋ねた。その答えが「予算がない」だった。

 山下准教授は「町にはエネルギー開発の蓄積があり、その経験を生かしたい。企業誘致のような外来型開発では単なる場所貸しで、地域にお金が落ちない」と残念がる。

 「風車が回っているのになぜ電気が来ないのか」。震災は図らずも「再生可能エネルギー日本一」を誇る町の矛盾を浮き彫りにした。停電は3日間続き、町民は町に不満をぶつけた。

 町内に設置された巨大風車15基の年間発電量は一般家庭約1万6600戸分に相当する。町内約2900戸を優に超えるが、各世帯に直接送電されることはない。法律で禁じられているからだ。

 現状は全量、東北電力に売電される。電気料金が1キロワット時当たり20~24円なのに対し、町で生産された電気の売電価格は約9円と半分以下だった。

 FIT導入により売電価格は19円に引き上げられたが、第三セクターの風力発電会社はそれまでの低い売電単価と重い維持管理費負担で、約1億7000万円の累積赤字を抱える。

 それでも鈴木重男町長は「何もない山村でもエネルギーを生み出せることが実証できた」と自負する。「エネルギーの地産地消」「小規模分散型発電の必要性」といった意義を明らかにする一方「採算性」や「巨額の初期投資」などの課題を提示できたのも葛巻町の試行錯誤のおかげだ。

 「資本力のある企業は大規模太陽光発電(メガソーラー)などに積極的だが、今のままでは国民の負担が増すだけではないか」。鈴木町長は、家庭や企業に電力料金が転嫁される現行FITの仕組みを気にかける。

 スペインは買い取り価格を高く設定したため過剰投資を招き、新規の適用を停止。2022年末までの脱原発を決めたドイツでさえ、消費者負担の増加を理由に値下げや打ち切りを検討中だ。

 とはいえ、環境に優しい再生可能エネルギー先進地としての信念は揺るがない。「震災は、エネルギーとはなんぞやという問いを国民に突き付け、原発に依存した町づくりの限界をも示した。葛巻の取り組みは間違っていない」と鈴木町長。

 「風とゆききし、雲からエネルギーをとれ」

 岩手県出身の詩人宮沢賢治は「農民芸術概論綱要」の中に再生可能エネルギーを予感させるこんな一節を残していた。

 東京電力福島第1原発の事故は、原子力への依存度を高めてきた日本のエネルギー政策にいや応なしに見直しを迫る。

 依存度を下げるため、国は再生可能エネルギーの導入促進を掲げ、FITを導入。列島各地が再生可能エネルギー関連のプロジェクトに沸く。

 河北新報社の提言「地域に密着した再生可能エネルギー戦略」は、エネルギーの「地産地消」に着目し、併せて電力を安定供給するために欠かせない蓄電池技術の向上・普及に力点を置く。

 豊かな自然に恵まれた東北で潜在能力が高い風力、小水力、地熱の各発電の有用性を検証し、進化する蓄電池技術や次世代送電網(スマートグリッド)の可能性を探った。(東北再生取材班)

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