地域に密着した再生可能エネルギー戦略(3)米どころの底力

地元の技術を結集して黒倉堰用水路に設置した出力5キロワットの小水力発電施設=10月30日、仙北市田沢湖

 秋田県のほぼ中央部、玉川水系が肥沃(ひよく)な扇状地を形づくる仙北平野で、風変わりな「水争い」が起きていた。

 仙北平野土地改良区(大仙市)の関係者が証言する。「震災後、大手商社の担当者が相次いで訪ねて来るようになった。改良区の水利権を借り受けたいという話だった」

 同土地改良区はかんがい面積9177ヘクタール、取水量毎秒約24トン。全国有数の規模と設備を誇る。網の目に走る無数の農業用水に小型水車を設置して発電事業を展開するのが、大手商社の狙いだ。

 一般に出力1000キロワット以下の小規模な水力発電設備を総称して小水力発電と呼ぶ。簡易な水車と発電機で電力を生み出す技術は、送電網が未整備だった終戦直後からあり、中山間地域などで自家発電に利用されてきた。

 震災を経て再生可能エネルギーに注目が集まる中、河北新報社の提言は「農業用水路を利用すれば、米どころの東北が有するポテンシャルを最大限に引き出せる」と、とりわけ小水力発電の可能性に着目する。

 環境省が2009年度に実施した調査によると、小水力発電の適地は全国に2万6798地点あり、その利用可能量を原発18基分の出力に相当する1811万キロワットと推計。このうち東北には、全体の27%、500万キロワットの利用可能量がある。

 小水力発電の能力は、水の流量と落差で決まる。奥羽山脈から玉川が流れ下る仙北平野は、北アルプスを背にした富山平野と並んで小水力発電の国内最適地とされる。

 仙北平野の東端に位置する仙北市田沢湖の黒倉堰(ぜき)ではことし8月、小水力発電の実証実験が始まった。出力は5キロワット。大手商社に先んじたのは、秋田県内の産学官が連携した「奥羽山系仙北平野水資源調査研究会」(会長・門脇光浩仙北市長)のプロジェクトだった。

 研究会事務局の長瀬一男さん(59)は「あの震災でわれわれは、自分たちが使うエネルギーは自分たちで作ればいいし、自分たちで作れるという結論にたどり着いた」と力説する。

 発電ユニットは「オール秋田」を貫いた。システム開発は東北小水力発電(秋田市)。輪転機メーカーの宮腰精機(大仙市)が回転軸製作の技術を生かして水車を製造。設置は下水道敷設が専門の遠藤設計事務所(秋田市)が請け負った。

 仮に毎秒5トンの流量で落差5メートルの用水路なら、約170キロワット出力の水車を設置できる。これを国の固定価格買い取り制度に従って売電した場合、年間約3700万円の売り上げが見込める。

 研究会の中心メンバーで、東北小水力発電の和久礼次郎社長(60)は「初期投資を回収し、利益を出すのに10年もかからない」と試算。「小水力は震災を境に、環境保全をPRするモニュメントから実利を生むシステムに変わった」と強調する。

 震災と研究会の取り組みがきっかけとなって秋田県は12年度、新エネルギー関連製品開発事業を始動。小水力発電の開発に挑む新規参入企業などへの補助を決めた。

 和久社長は「秋田で育てた小水力発電の技術と製品を海外に輸出することが研究会の本当の目標」と意気込む。

 今夏、国際協力機構(JICA)の要請によりベトナム、ラオス、カンボジアで小水力発電の需要調査が行われた。水資源は豊富だが、発電施設の整備が遅れている東南アジアに小水力は最適の発電手段となる。調査団の一行に、和久社長の姿もあった。

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