地域に密着した再生可能エネルギー戦略(4)湯の街の挑戦

源泉施設の前で、バイナリー発電の可能性と地域再生への夢を語る土湯温泉町復興再生協議会の加藤会長=10月31日、福島市土湯温泉町

 東京電力福島第1原発事故の風評被害にあえぐ福島市の土湯温泉が見いだした起死回生の一手は、温泉という地域固有の熱資源に着目した小型の地熱発電事業だった。

 計画では、200度以上の熱水の蒸気でタービンを回す通常の地熱発電と異なり、53~120度の低温でもタービンを回せるバイナリー発電方式を採用。源泉からは140度の熱水が毎時25トン噴き出しており、水よりも沸点の低い特殊な液体を蒸発させ、発電機1基で200キロワットの出力を得る。

 バイナリー発電は既存の温泉を利用し、新たに井戸を掘る必要もないため、経済性に優れる。温泉発電とも呼ばれる。

 「バイナリーと説明されても、最初はちんぷんかんぷんだった。ただ調べれば調べるほど、土湯温泉に最適な発電方法であることが分かった」

 旅館関係者らでつくる土湯温泉町復興再生協議会の加藤勝一会長(64)はこう振り返る。

 発電機は1基約3億円で全額銀行から借り入れる。国の固定価格買い取り制度に従って売電した場合、年間約6000万円の売り上げが見込め、8年で償還できる。

 これを2基整備し、2014年春の運転開始を目指す。計画中の小水力も合わせれば、土湯温泉街の電力がほぼ全量、再生可能エネルギーで賄える計算だ。

 土湯温泉は、震災と風評被害の影響で旅館16軒のうち5軒が休廃業した。利用客は震災前の約半分にとどまり、温泉街の存続が危ぶまれていた。

 加藤会長は「バイナリー発電は疲弊した温泉街の救世主になりうる。将来は出力1000キロワットを実現し、温泉熱を使った高級魚の養殖や野菜工場も展開したい」と夢見る。

 大崎市鳴子温泉にも、温泉発電による地域再生を夢見る男性がいた。中山平地区で温泉旅館を経営する加藤敏宣さん(72)だ。

 今月上旬にあった「鳴子温泉エネルギー活用計画地元説明会」で、加藤さんは「バイナリー発電の電気を使い電気自動車に充電するスタンドを作りたい。ガソリンスタンドがない中山平地区を将来、電気自動車の普及率日本一にしよう」と提案した。

 鳴子温泉のバイナリー発電は東北大の研究チームが青写真を描く。出力30キロワットで、来年3月に試運転を始め、5年以内の実用化を目指す。

 東北大大学院環境科学研究科の木下睦准教授(環境科学)は「大型の地熱発電と違い、バイナリー発電は既存の井戸を使うため、資源枯渇の心配がなく温泉街の理解を得やすい。環境負荷も小さく、温泉が多い東北にとって開発の余地は非常に大きい」と指摘する。

 大規模な地熱発電所は全国に18カ所あり、東北と九州に集中立地している。全国の発電量は計約54万キロワットで、東北はそのうち約26万キロワットと約半分を占める地熱王国だ。

 数万キロワット級の大規模地熱発電所は建設コストがかさむほか、熱源の大半が自然公園内にあるため、長らく新規の建設が見送られてきた。

 再生可能エネルギー推進の観点から、環境省が規制緩和に踏み切り開発の余地が広がったものの、資源量調査に時間が掛かり、実際の稼働まで最短でも10年はかかるとされる。

 経済産業省が設置した「地熱に関する研究会」が09年6月に公表した中間報告によると、バイナリー発電に有望な地熱資源は推計で総出力833万キロワットに上り、原発8基分に相当するという。

 東日本大震災は、大規模集中型のエネルギーインフラの弱点を明らかにした。豊かな水や温泉の熱資源を有する東北こそ、再生可能エネルギーのフロントランナーになる可能性を秘めている。

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