有力紙、記者3分の1に 投資ファンド買収で変質 <米・地方紙の模索(上)>

 メディアを巡る環境の変化が目まぐるしい。インターネットの普及に伴う新聞の部数減、報道不信などを目の当たりにするたび、一人の記者として役割の再確認と、持続可能な将来の姿を模索する必要性を痛感してきた。スマートフォン向けニュースアプリを提供する「スマートニュース」のシンクタンクが企画した記者派遣プログラムの支援を受け、11月に米コロラド州を訪問。地方メディアの地殻変動が激しい現地で手掛かりを探した。
(東京支社・吉江圭介)

アルデン批判の記事を手にするプランケット氏。現在は地元の大学でジャーナリズムを教えている=11月17日

■ 激しい経費削減

 ロッキー山脈を望む米西部コロラド州。人口70万の州都デンバーは、標高1マイル(1600メートル)の「マイル・ハイ・シティー」として知られる。11月中旬、地元紙「デンバー・ポスト」の編集局がかつてあったビルを目指した。

 「FREEDOM of the PRESS(報道の自由)」「right of the people(国民の権利)」。ガラス越しに見える1階ロビーの壁は、報道を担うプライドに満ちた言葉で埋め尽くされていた。

 州議会議事堂や裁判所近くの中心部に立つビルに、記者の姿はない。

 80万部を発行し、ピュリツァー賞にも輝いた1892年創刊の有力紙。2009年に150年の歴史を持つライバル紙「ロッキー・マウンテン・ニュース」が経営難で廃刊し、デンバーで唯一の日刊紙としてニュースを届けてきた。

 異変は10年から。ニューヨークに拠点を置く投資ファンド「アルデン・グローバル・キャピタル」による買収以降、激しい経費削減が始まった。首都ワシントンの支局は閉鎖。編集局は北に約7キロ離れた郊外の印刷工場と同じ敷地に移った。

 社説責任者だったチャック・プランケット氏(54)は「入社した03年に300人いた編集局は人員削減が続き、18年春には100人になろうとしていた。少な過ぎる」と振り返る。

 18年4月6日、会社を揺るがす事態が起きた。過激なリストラに反発したプランケット氏らがアルデンを批判する記事を掲載した。「良いジャーナリズムに取り組む気がないなら、新しいオーナーに売るべきだ」

■ 電話取材中心に

 ウェブ掲載後、「とんでもなくバズった(話題になった)」とプランケット氏が言うほど、全米で反響を呼んだ。プランケット氏は「利益のためだけに会社を経営することは愚か。彼らは新聞社の使命など気に掛けない」と憤る。

 激怒した会社側は「犯人」を突き止めようとした。オーナー交代は実現せず、プランケット氏は1カ月後に会社を去った。

 同僚のラリー・リックマン氏は、プランケット氏が会社を追われた事実を書くべきだと上司に伝えて執筆した。「原稿にあるアルデンという単語を全て削ってくれ」。上司の指示を拒んだリックマン氏も退職した。

 その頃、編集局の人員は60~70人に減ったとみられる。以前は現場へ急いだ災害でも電話取材に。通信社の配信に依存した紙面構成に変わったとの指摘もある。英誌プレス・ガゼットによると、21年の発行部数は約6万部に落ち込んだ。

 記者とアルデンの攻防を描いたドキュメンタリーを制作したブライアン・マローン氏(56)は「他社の記事を新聞に載せるだけ。記者は過労やストレスにさらされ、ニュースの質も格段に落ちた。コロラドはエネルギーや教育など重要問題が山積している」と厳しい認識を示す。

 「優れたジャーナリズムの欠如は、誤った情報の氾濫を招く。がらくたでいっぱいの海のようだ。ジャーナリズムの弱体化で、汚職が増えるとの研究結果が幾つもある」と懸念する。

 報道の現場に何が起きているのか。連絡を試みたが、現役記者への取材はかなわなかった。

デンバー・ポストの編集局がかつて入っていたビル(正面)=デンバー中心部

[コロラド州]先住民が暮らしていた地域で、1850年代、ゴールドラッシュを契機に繁栄が始まった。ロッキー山脈など豊かな自然が魅力の観光業や農業、畜産業、航空宇宙産業が盛ん。人口は577万。面積は日本の7割の約27万平方キロ。白人が87%を占める。

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