地元に特化し調査報道 読者とのつながり、未来への希望 <米・地方紙の模索(下)>

 米コロラド州の地元紙「デンバー・ポスト」を退職した記者10人が2018年9月、仮想通貨企業などの支援で州都デンバーにデジタル専門の報道機関「コロラド・サン」を設立した。

 地元で人気のプロフットボールNFLのデンバー・ブロンコスや、日常的な事件事故の取材はしない。権力監視と調査報道に特化し、長編ローカル記事を提供する路線を打ち出す。

「ニュース砂漠はコロラドで見たくない。そのためにサンがある」と語るリックマン氏=11月15日

■ 読者に敬意払う

 取材テーマを問わない国内のマスコミ媒体から見ると、一風変わった方針だ。創設者のラリー・リックマン氏は「ニューヨーク・タイムズにできず、サンだけができる報道は何かを考えた」と説明する。

 「今日の記事を読んでほしい」。取材に応じたリックマン氏は21年11月15日、スマートフォンの画面を見るよう促した。強力な鎮痛剤「フェンタニル」の過剰摂取で死亡する事例が州内で相次いでいることを、公文書の公開請求などで明らかにした調査報道だ。

 リックマン氏は「こうした記事は時間も費用もかかるが、読者からコロラドの質の高いニュースを求められている。ここで生活し、働く意味を提供したい」と使命感をにじませる。

 読者に敬意を払うとの基本方針の下、ニュースサイトの細部を工夫した。興味を引くために見出しを短くする「釣り見出し」は避ける。自動的に作動する広告や動画は入れず、快適に閲覧できるようにした。

 評価は数値に現れた。毎日届ける記事は6本程度。ユーザーの記事1本の平均滞在時間は米国の一般的な新聞で45秒にすぎないが、サンは3分で4倍も長い。

 PV(ページビュー)より読者との深いつながりを表す滞在時間の重視は、収入の柱となる有料会員(月額5ドルから)の増加につながった。新型コロナウイルスの流行で地元ニュースへの関心の高まりを追い風に、現会員は1万5000人、無料のニュースレター登録者は18万人に上る。

コロラド・サンなど複数の報道機関が拠点を構えるメディアセンター=デンバー中心部

■ 「公共への貢献」

 サンは5月、非営利団体「ナショナル・トラスト・フォー・ローカル・ニュース」と共に身売りに出された地元の地域紙24紙を買収すると公表した。目標とする「公共への貢献」に基づく挑戦だ。

 米デジタルメディアによる新聞社の買収は珍しい。傘下に収まった「コロラド・コミュニティー・メディア」の編集者マーク・ハーデン氏(65)は「新しいモデルとして大きな注目を浴びた」と語る。

 サンが買収した背景には、ファンドが取得すれば強引なコスト削減で新聞社の廃刊に拍車が掛かるとの危機感がある。米ノースカロライナ大の報告によると、コロラド州(64郡)では新聞社1社のみが33郡、存在しない地域が3郡あり、ニュース砂漠の拡大が迫る。

 報道機関を取り巻く環境が一層厳しさを増す中、リックマン氏はジャーナリズムの将来を楽観視していると言い切る。

 「紙媒体、デジタルなどプラットフォームは重要ではない。ジャーナリズムにとってコミュニティーへの貢献が大事。私たちは多くのものを失ったが、(デジタル化で)潮流を取り戻しつつあり、未来への希望に勇気付けられている」

 12月に23人目の記者を迎えたサン。成長に裏打ちされたリックマン氏の言葉と表情は前向きだ。

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