河北春秋(1/20):旧幕臣の勝海舟が明治政府の要職に就いてい…

 旧幕臣の勝海舟が明治政府の要職に就いていたことを福沢諭吉は批判した。勝が福沢に宛てた手紙。「行蔵(こうぞう)は我に存す。毀誉(きよ)は他人の主張。我に与(あず)からず我に関せず」▼「行蔵」は出処進退の意。文を平たくいうと「自分の出処進退は自分が決める。それをけなす、ほめるは他人がすること。私の知ったことではない」となる。幕末から明治にかけての時局を語った『氷川清話』には「公表されても差し支えない事を言ってやったまでサ」とある▼「行蔵は我に存す。それぞれの決断の責任は自分が全て負う覚悟で取り組んできた」。岸田文雄首相が施政方針演説で述べた。出処進退よりは行動に責任を持つとの意味で「行蔵」のくだりを引用したようだ▼ただ、勝の言葉は「毀誉は他人の主張」以下もセット。「私の知ったことではない」という意味が加わってしまうと首相が掲げる「聞く力」と正反対になる。ここは首相の並々ならぬ意気込みを示した「意訳」と捉えよう▼勝は政治家の秘訣(ひけつ)を「正心誠意の四字しかないよ」と示す。法律や理屈以上に「言うに言われぬ一種の呼吸」があるといい、当時の国政を「人心を慰安するところの余韻がない」と評した。言葉は120年前。コロナ禍の今、政治に「人心を慰安する余韻」は備わっているか。(2022・1・20)

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