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警備会社、食肉処理業者が鳥獣駆除受託 過疎地域の負担軽減へ模索

 イノシシやシカによる食害が深刻化する中、駆除作業の担い手は高齢化や過疎化で減少し、捕獲後の殺処分や埋却の負担が地域に重くのしかかる。野生鳥獣による農作物被害が年間約6億円と全国2位の福岡県では、警備会社が作業を請け負ったり、食肉処理業者が新たな担い手を育成したりと、模索が続いている。

イノシシ駆除のため、箱わなを設置している進藤さん=2021年10月、福岡県糸島市

 「イノシシ2匹、捕獲しました」。福岡県糸島市の進藤和昭さん(72)に、箱わなを見回る仲間から連絡があった。進藤さんは軽トラックで急行。わなにかかったイノシシを見て「悪させんとやったら、よかとばってん」と漏らした。

 進藤さんが鉄柵からワイヤを差し入れると、興奮したイノシシが走り回る。20分ほどかけて上顎にワイヤを引っ掛け、さらに前足をつかんで引き寄せる。最後は首をひと突き。2匹を仕留めるのに約1時間を費やした。

 ここ10年、地区には狩猟免許を持った住民がおらず、稲やミカンなどの食害が多発。道路脇や土手を掘り返す被害も目立っていた。放置できなくなった2020年、進藤さんら4人がわな猟免許を取得して駆除に乗り出した。ただ、毎日餌を置き、見回るといった活動ができるのは進藤さん1人。多いときは月5回、殺処分にも駆り出される。

 「心身の負担が大きいが、誰もする人がおらんから自分がやるしかない」。進藤さんは西日本新聞(福岡市)の「あなたの特命取材班」に苦しい胸中を明かした。

 福岡県の野生鳥獣による農作物被害額(19年度)は約6億円で、全国2位。イノシシ被害が半分を占める。環境省によると、19年度までの30年間でイノシシの推定個体数は全国で約3倍の80万匹に、ニホンジカは北海道を除いて7倍に増加している。

狩猟免許所持者、40年で3分の1に

 駆除には、鳥獣保護法に基づく「狩猟」や「許可捕獲」の手続きが必要。主に、わなや猟銃による狩猟免許所持者が担うが、その数は15年度までの40年間で3分の1の19万人まで減った。食肉利用も進まず、イノシシの捕獲数に占める解体数は5%止まり。殺処分後の埋却も大きな負担となる。

 福岡県は20年度、警備会社「ALSOK福岡」(福岡市)に処分を委託する実証実験を開始。狩猟免許を取得した作業員が、食害が大きい糸島市や添田町などで殺処分し、食肉加工施設への運搬などを担う。「農家の負担を減らし、安定的に駆除できる体制を構築したい」と県担当者。

 九州のある森林組合が管理する山林では、植林した苗木をシカが食べる被害が拡大。約4年前からわなを設置しているが、職員が殺処分や埋却などに追われ、樹木管理業務に支障も出た。19年から食肉加工業者と契約し、シカがわなにかかると現場で血抜きなどを施し、食肉用に持ち帰ってもらうようにした。

 糸島市のジビエ専門食肉処理業者「tracks(トラックス)」は、駆除を請け負い、担い手育成も手掛ける。猟師でもある江口政継社長(42)は「イノシシなどの駆除要請は絶えず、追い付かない。解体や埋却は重労働で、捕獲した個体の処分に困っている猟師も多い。解決には、駆除の担い手育成と、加工肉の利活用拡大を両輪で進める必要がある」と訴えている。
(西日本新聞社提供)

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