妻からのDV被害、悩み深く 「男だから」支援なく手詰まり感
妻からのドメスティックバイオレンス(DV)に悩んでいるという夫からの声が「読者とともに 特別報道室」に届いた。相談機関に苦境を説明しても寄り添ってもらえず、手詰まり状態に追い込まれているという。男性のDV被害は潜在化しやすく、専門家は相談体制の充実を求めている。
「能なし」「くず」罵詈雑言浴びる日々
「妻からは日々、罵詈(ばり)雑言を浴びせられ、私は耐えなければならなかった」。仙台市の50代男性は、妻からのDV被害の実態を切々と打ち明けた。
20年ほど前に結婚した。妻の態度が一変したのは結婚後1年ほどたった頃だった。「住家が大手メーカー施工ではない」「車が輸入車でない」といった愚痴を言い始め、子どもの前で「能なし」「くず」などとののしるようになった。
暴力は次第にエスカレート。箸置きを投げ付けられたり、みそ汁をかけられたりしたことも。昨年5月、激高した妻から物を投げ付けられ、リビングのガラスが割れた。駆け付けた警察官から勧められて家を出た。
以来、実家で生活するが、手狭なため時々ホテルや車で寝泊まりする。「行政に相談しても『働いているなら離婚して、自分でアパートを借りればいい』と言われる。私が男だからか寄り添った対応をしてくれない」と苦しそうに語る。
警察庁によると、2020年に全国の警察が相談を受けるなどしたDV事案は8万2643件。うち被害者が男性のケースは1万9478件(23・6%)に上り、この5年で2倍近く増えた。
殴る蹴るといった身体的暴力以上に目立つのが、精神的暴力だ。06年から男性相談を受け付ける神奈川県によると、「性格が悪い。育てた親も悪い」と本人や親の人格を否定するような暴言を吐かれたり「収入が少ない」と残業やアルバイトを強いられたりするケースが見られる。
一方で、男性が周囲に被害を打ち明けるケースは少ないという指摘もある。東京のNPO法人「OVA」の調査によると、DV被害を受けた女性の24・5%が身近な人に相談するのに対し、男性は9・9%にとどまった。
相談しない理由として「自分にも悪いところがある」を挙げる人が多かった。DVは「男性から女性への暴力」という意識が浸透し、自身が受けている行為をDVと認識せず、弱音を吐くことを恥ずかしく思い、打ち明けない男性が多い可能性もある。
相談窓口のホームページに男性も相談できることを表記している機関が少なく、相談機関を載せたリーフレットの多くが女性向けに作られていることも、男性相談が少ない一因とみられる。
DV支援などに取り組む日本家族再生センター(京都)の味沢道明所長は「DV被害に悩む男性がいることを、行政もメディアも真剣に考えてこなかった。行政は被害男性の苦境に寄り添い、弱音を吐いてもいいという環境をつくる必要がある」と話す。
(神田一道)
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