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「記憶の素描」(5)狐問答-石沢麻依(芥川賞作家)

 雪の訪れのない街でも、冬の雨はよく通り過ぎる。昼間を灰色に染め上げるものから、急に大泣きするように降り込む類いのものまで雨脚が見せる表情はさまざまだ。

 先日、静かな通り雨が、家の前の街路をさわさわとぬらした。窓から差し込む光が色あせ、通りを走る自動車のタイヤの音が急に水気を帯びる。空は薄青いまま、…

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