【検証・女川原発訓練】政府と宮城県に「命守る責任感」なく 住民不参加、残る疑問

 東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)の重大事故を想定した政府と宮城県の原子力総合防災訓練が10~12日に行われた。原発30キロ圏の約20万人が県内31市町村に逃れる避難計画の実効性が疑問視される中、新型コロナウイルスの感染拡大で、当事者となる肝心の地元住民が不参加に。開催までの経緯や当日を振り返ると、政府も県も「何があっても県民の命を守る」という主体的な責任感を欠いていた。(報道部・高橋一樹)

石巻市の避難者を乗せた想定のバスを止め、放射線量を検査する作業員ら=12日、宮城県涌谷町の涌谷スタジアム付近

 最終日の12日朝。原発30キロ圏の西端に当たる東松島市野蒜地区から、住民役の市職員を1人乗せた大型バスが亘理町へ出発した。後を追ったが、避難計画で定めたルートではない三陸沿岸道に入り、面食らった。

 「バスで避難ルートを以前走ったので、今回は時間を短縮した。職員の乗用車が下道をたどった」。市の担当者はこう話したが、県原子力安全対策課は「渋滞が特に懸念されるルート。通常は緊急車両専用となる高速道も、住民避難に使えるように関係機関と調整した」と語った。

 計画通りに避難ルートを通ってこそ、検証につながるのではないか。県と市が異なる説明をしたのも気になった。

 県と自治体のコミュニケーション不足は、訓練前の取材でもうかがえた。

 女川町の全町民を受け入れる栗原市は1月末の時点で「訓練の規模が分からず、対応を検討できない」と困惑を隠せなかった。他でも担当課が避難してくる自治体を取り違えていたり、計画で定めているはずの避難所を「決まっていない」と答えたり。明らかに準備が不足していた。

 自然災害と異なり、原子力災害は遠くに逃げる広域避難が前提で、避難する側と受け入れ側との相互理解が不可欠。地震や津波などで被災し、計画の実行が困難となる事態もあり得る。広域調整で大きな役割を担う県の姿勢は及び腰に映った。

 

 新型コロナの感染が急拡大する中での開催可否を巡り、村井嘉浩知事は「最終的に判断するのは国」と強調。原発30キロ圏の複数市町の要請に応じて住民参加の見送りが決まった後も「国がやると言った以上はしっかりやる」と、どこか人ごとのようだった。

 政府は政府で、県の意向に沿う振る舞いを装った。住民不参加について、山口壮原子力防災担当相は「県の方針で決めた」「県の判断」と繰り返した。

 「道路の混み具合はいかようにでもチェックできる」(4日)「避難計画の実効性は十分確かめられた。車両の滞りなどは細部にわたることだ」(15日)

 原子力防災を預かる責任者の発言には、政府が住民の避難訓練を重要視していない意識が透けて見えた。

 30キロ圏に一部入る美里町の前町長で、「脱原発をめざす宮城県議の会」の佐々木功悦会長は訓練を視察し、その成果を疑問視。「実際の避難は高齢者や子ども、障害者などさまざまな人を受け入れ、相当な困難が伴う。住民の参加抜きに、計画の実効性担保はあり得ない」と断言する。

 女川2号機の再稼働は安全対策工事が終わる来年度以降。今回の訓練を「実績づくり」とする見方を政府も県も否定するが、避難計画を最大限検証し、課題をつぶしてからの再稼働でなければ、多くの県民の安心は確保されない。

参加市町「職員だけでは限界」

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、地元住民不在で実施された女川原発の原子力総合防災訓練。30キロ圏の約20万人が31市町村に逃れる避難計画の検証には「住民役の職員だけでは限界があった」との意見が参加市町から相次いだ。

 「国や県との連携は確認できたが、重大事故時に避難する住民の生の声は聞けなかった」。石巻市の担当者は率直に問題点を挙げ、消化不良を嘆いた。

 涌谷町の担当者は「どう行動するか読めない住民が参加し、手順を確認したり、防災意識を高めたりすることに意義がある」と強調。「住民がいなかったので、どんな課題があるか分からないことが課題だ」と振り返った。

 参加自治体の数も少なかった。石巻市民は14万人余りが27市町村に分かれて避難する計画だが、受け入れ先で避難訓練に臨んだのは大崎市のみ。県全体では30キロ圏の7市町を除くと、4市町にとどまった。

 石巻市危機対策課は「(避難先を振り分ける)避難所受付ステーションの広さ、設置場所の妥当性などを避難先の自治体と協議しなければならない」と指摘。前提条件を変えて何度も訓練する必要性を訴えた。

 大崎市では12日、避難所の開設運営訓練が行われた。バスや乗用車で石巻市民役の職員らが到着すると、両市の職員が応対。新型コロナ対策で発熱者や濃厚接触者を別の部屋に分ける手順もチェックした。

 「感染を防ぎながら、さまざまな災害が発生した場合を想定して入念に準備してきた。一定の成果があった」。大崎市の担当者はこう説明したが、一連の流れを視察した県議は「自治体職員が背広で参加したり、除染作業が不十分だったり、緊迫感が足りなかった」と話し、評価が割れた。

 女川町では11日、離島からの避難を確認するため、「シーパル女川汽船」と初の船舶避難訓練に取り組んだ。同社が町と結んだ協定では、緊急輸送要請は空間放射線量が被ばく線量限度を下回り、津波が予想されない場合に限られる。

 乗組員の一人は「空間線量と津波の情報を町と共有する必要がある。風向きによって違う港に避難させるなど、条件を変えながら定期的に訓練してはどうか」と提案。同町の漁師阿部修二さん(45)は「東日本大震災では津波で港や道路が使えなくなるなど、予想外のことが起きた。空路の輸送力も確保してほしい」と注文した。

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