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「記憶の素描」(8)味覚をなだめる-石沢麻依(芥川賞作家)

 ひどい風邪をひくと、舌が途端に子供のように振る舞い出す。熱でコントロールの利かなくなった感覚は宙に浮かび上がり、身体から幾つも風船が飛び出したように心許(こころもと)ない。私の場合、なかでも味覚が厄介なものとなる。熱で鈍った舌は、記憶から慣れ親しんだ味を呼び起こし始めるのだ。何年もドイツで暮らすう…

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記憶の素描

 仙台市出身の芥川賞作家石沢麻依さんのエッセーです。ドイツでの生活で目にした風景や習慣の妙、芸術と歴史に触発された思い、そして慣れ親しんだ本や仙台の記憶を、色彩豊かにつづります。

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